★★★★☆
あらすじ
医療行為の延長として、いわゆる電動の大人のおもちゃを発明した医師の物語。
感想
序盤に、最新の医療の知見を取り入れたい主人公である若い医師が、それを認めない医院長と対立して仕事を辞めるシーンがある。医院長は、過去の自らの知識と経験にすがり、新たな知識をなかなか認めない老人だ。大抵そんな老人が権威と力を持っていて、新しい力を阻害する。
こういう構図はきっといつの時代もあって、これが人類の進歩を緩やかにさせているのだろうなと、見ていてちょっとつらかった。しかし、ばい菌なんてものはないから包帯は取り替えなくていい、とりあえず治療として血を抜いておけ、というのは酷い。これがわずか百年ほど前の出来事なのだからゾッとする。
新たに職を探す主人公がようやくありつけた仕事が、ヒステリーの女性にマッサージを施すという病院だ。今の感覚で見るとただの風俗の女性版にしか見えないのだが、医者も患者も医療行為ですから、といたって真面目に取り澄ましているのが可笑しい。きっと女性たちも何のてらいもなく、ちょっと病院へ、と夫に告げて来ているのだろう。
病院が人気すぎて体力的な限界を感じた主人公が、やがて電動マッサージ器を思いつくわけだが、映画としてはそれをプロジェクトⅹ的に描くわけではなく、次第にサイドストーリーへと押しやってしまう。おそらくそれをガッツリ描いても、そんなには面白くなりそうもないからだろう。ただ、作ったマッサージ機の安全性を確かめるために娼婦を買って相手をしてもらう、というのが面白かった。ちょっとよく分からない世界になってしまっている。
おもちゃの話の代わりにメインになってくるのが、女性の自立と開放のために活動する病院の娘と主人公の関係だ。マギー・ジレンホール演じる病院の娘の役どころは、おもちゃ同様、女性の社会的立場の向上つながりということになるのだろう。ただそんな娘が父親の病院を評価していないのは意外だった。女を家に閉じ込めているから、そんなのが必要になると思っていたということか。
当時の人達がかなりの違和感を抱いている彼女の「女性らしくない」言動は、今から見ればいたって普通になっている。時代は変わるものだ。一方で当時は金持ちの貴族がすました顔で治療を受けていたマッサージ機は、今は大人のおもちゃとして日陰の存在になっている。この対比を考えるのも、なかなか興味深いかもしれない。
映画は大人のおもちゃを題材にしながらも、変にやらしくしないでコミカルに描いている。そしてそれだけに終わらず、それに引っ掛けつつちゃんと男女の物語を成立させていて、よく出来ている。
エンドロールでは、おもちゃの進歩の歴史が紹介されていく。よく考えたら数ある電化製品のなかでも初期に作られたことになるのか、なんて考えていたのだが、突然、日立のマッサージ機も紹介されていて驚いた。あれって、純粋なマッサージ機がそっち方面に転用されたのだと思っていたのだが、確信犯的に作られていたのか?それとも、ただ向こうの人の思い込みや勘違いなのか?どちらにしても、歴史に名を刻んで日立はきっと誇らしいだろう。
スタッフ/キャスト
監督 ターニャ・ウェクスラー
出演 ヒュー・ダンシー/マギー・ジレンホール/ジョナサン・プライス/フェリシティ・ジョーンズ /ルパート・エヴェレット/ジェマ・ジョーンズ