★★★☆☆
あらすじ
精神分析学の祖フロイトとユング、そしてその二人に影響を与えた女性、ザビーナ・シュピールラインの物語。
感想
フロイトとユングという二人の精神分析の大家の間に、一人の女性がいたことを初めて知った。彼女の数奇な運命だけでも、好奇心をそそられる。統合失調症の患者としてユングの診療を受け、後に彼の愛人となり、別れたあとはフロイトの元で学び、精神分析家となった女性。相当ドラマチックだ。
精神分析医と患者の不適切な関係は、今でも時々問題になるが、意図的でないにしろ、患者を一種のマインドコントロールにかけてしまっているということなのだろう。後は医者の倫理観次第といった所。診察で患者は自らの性的嗜好なんかを打ち明けているわけで、それを了解している医者とは阿吽の呼吸で互いに楽しくて仕方がないのかもしれない。第三者的には教師と生徒の恋愛のように、どこかモヤモヤするわけだが。
二人の関係は、ユングとフロイトの対立の一因にもなっていく。ユングの倫理観を信じるフロイトと、嘘をつくユング。だけど、金持ちの娘を嫁に持ち、広大な屋敷で暮らすユングを見て、その前の初期の段階からフロイトが「こいつリア充でどこか信用出来ないな」と思っているような雰囲気が伝わってきていて面白かった。
ユングがオカルト的なものにも関心を抱いていたことも、二人が袂を分かつことになった原因だが、フロイトのような画期的な理論を唱えた科学者にとっては、厄介な味方が多かったのかもな、と思わせられた。世間があっと驚くような説は当然最初は拒絶反応が多いはずだが、そんな中で簡単に信じて賛同を示す人は、オカルトを信じやすい人なのかもしれない。
彼らは、援護射撃のつもりでその科学理論にオカルト要素を織り交ぜた話をするかもしれず、彼らを放っておいたら、いつの間にか自説がただのオカルト扱いされてしまう恐れもある。なのでフロイトのような先駆者は、オカルト的なものを警戒して遠ざける必要を感じていたのかもしれない。そうすることで、自説が科学的であることを示そうとした。
登場人物たちの物語がぶつ切れで描かれていて、少し物足りなさを感じた。しかし、戦争がメインの歴史モノだけでなく、こういう歴史的な科学者たちの話も面白い。マンネリ化するNHKの大河ドラマでも趣向を変えて、こういうのをやればいいのにと思ってしまった。
スタッフ/キャスト
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
脚本 クリストファー・ハンプトン
出演 マイケル・ファスベンダー/ヴィゴ・モーテンセン/キーラ・ナイトレイ/ヴァンサン・カッセル/サラ・ガドン
登場する人物
カール・グスタフ・ユング/ジークムント・フロイト /ザビーナ・シュピールライン