★★★★☆
あらすじ
自ら立ち上げた石油会社を清廉潔白な経営手法で成長させてきた男は、ライバル会社によるものと思われる嫌がらせや妨害行為によって、次第に苦境に立たされる。
感想
不正を嫌い、常に正しき行いを心がける理想の高い主人公。従業員が襲撃されれば見舞って温かい声をかけ、誰とでも誠実に対応しようとする。確かに見るからに高潔さが伺える人物である。悪い人ではない。
だが、そんな自分の考え方ややり方を他の人にも適用しようとすると問題も生じる。自分は失敗を糧に強くなってきたから、君もそうすれば良いんだよと言われても、それが出来ない人間もいるし、それが重荷になってしまう人もいる。だけど主人公はそれが理解できない。分かっているなら実行すればいいじゃないか、弱虫だな、と相手を励ましてさらに追い詰めていく。
こういう、自分では当然だと思っている事が、相手にとっては当然のことではないという事に気づけないことによって起きる悲劇は、どこかの居酒屋チェーンの労災の話を思い浮かべてしまった。言っている本人は全然悪意がなく、なんなら相手のためを思って言っている気になっているからたちが悪い。
映画の中では度重なる嫌がらせとして、主人公の会社のタンクローリーを強奪する事件が頻発する。しかし、あんな大きなタンクローリーが白昼堂々と何回も奪われるなんて、警察が仕事をしてないとしか思えない。ちゃんと捜査をすれば目撃者なんていっぱいいるだろうし、簡単に解決しそうなのだが。
まぁそれはよいとして、襲われる可能性のある運転手たちにとっては、深刻な事態である。自衛の手段として武器を持つことを主張する。しかしそれを主人公は承諾しない。許可なく武器を持つことは違法だし、こちらが武器を持つことで相手の武装はエスカレートされるはずだ、と。
確かにその通りなのだが、だからといって何の対策もしないのはどうなのだろう。苦肉の策として、同業者を集めて「もしやっているのならこんな事は止めてくれ」とお願いするだけ、というのは苦笑するしかなかった。このあたりは日本の憲法9条についての議論を思い起こさせる。
社員の起こした事件から資金繰りに問題が生じ、苦境に陥っていく主人公。そんな中でも誠実であろうとし、それが功を奏する場面もある。しかしそれでもまだ厳しい状況を脱することは出来ない。
人が理想のまま誇り高く生き続けることは簡単ではないことを思い知らされる映画。そして自分は清廉潔白な人物のつもりでいても、その分周りの人間が泥をかぶっているだけのこともある。そんな理想に生きる男に起きる出来事が、リアルに描かれている。高潔な人物がまずいないこの世界で、高潔に生きていくことの難しさを教えてくれる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 J・C・チャンダー
出演 オスカー・アイザック/ジェシカ・チャステイン/アレッサンドロ・ニヴォラ/デヴィッド・オイェロウォ/アルバート・ブルックス/カタリーナ・サンディノ・モレノ/アシュレー・ウィリアムズ/エリス・ガベル/クリストファー・アボット/エリザベス・マーヴェル /ピーター・ゲレッティ/デヴィッド・マーギュリーズ