★★★★☆
内容
ウォール街からITの世界に飛び込んだ著者の奮闘ぶりが描かれる。
感想
上下2巻からなる本で、「シリコンバレー修行編」「フェイスブック乱闘編」とサブタイトルが付けられており、上下で内容が大分変わる。上巻は著者がどのようにIT起業に至ったか、そしてスタートアップ企業の内実などが描かれ、下巻ではフェイスブックで働くことになった著者による、大企業フェイスブック内の様子が描かれている。
上巻で印象に残ったのは起業家を育てるスタートアップファンド「Yコンビネータ」の存在だ。スタートアップ企業を短い期間で集中的に指導しているのだが、そこで起業家同士が交流して刺激を与えあう。さらに成功したOBとの交流によって、経験不足を補うための知見を得ることができ、業界の実力者たちとの人脈を作ることも出来る。
それだけでもかなりのメリットがあるのだが、それだけではなく、たくさんの企業を輩出している実績を背景に、OBを束ねて業界内でも力を持った集団としてかなりの影響力を持っている、というのも大きい。将来有望なスタートアップ企業に、不実な行いをするベンチャーキャピタルがいるとOB起業たちが一丸となって取引停止などを行い、彼らを排除しようとする。困ったことが起きた場合にYコンビネーターに相談すれば、用心棒的なことまでしてくれるというわけだ。右も左も分からない起業家たちにとっては頼もしい存在となる。
スタートアップ企業を売却し、そこから自分ひとりだけ抜けてフェイスブックに入社した著者。一緒に創業した仲間との関係がギクシャクしたものになってしまう所とか、この辺りはよくあるバンドのデビュー話を連想してしまう。
CEOから社員へ、というのはなんだか急に夢がなくなったような気もしないではないが、フェイスブックという何億人ものユーザーを抱える企業においては、自分がやったことが一国の大統領でも敵わないくらいの多くの人に影響を与えることが出来る。そう考えると、かなり魅力的なことなのかもしれない。
そしてフェイスブックという業界の巨人といえども、その内実は最先端のテクノロジーを駆使しているわけではないというのは興味深い。もともと金儲けに関心が薄かったということがあるのかもしれないが、マネタイズの部分が全然なっていないと著者は憤る。著者が上層部に訴えかけてもその内容を理解できているようには見えず、社内政治がものをいうというのは、まるでどこにでもある停滞感のある大企業のようだ。
ただそんな状況になりつつあるのは認識しているようで、対策としてスタートアップ起業を立ち上げるような気骨のある著者のような人物をスカウトしている、というのは流石だ。ちゃんと常に危機感を覚え、対策は打ってある。これがいずれ駄目となっていく企業との違いなのかもしれない。駄目になりそうでも、いくつか打った策の一つが窮地を助けてくれる。
このフェイスブックでの話が中心となる下巻は、著者が担当した広告事業の話がかなり詳細に語られていて、興味のある人にはちょっとした授業のようで面白いかもしれないが、そうでない人にはちょっとつらいかもしれない。
様々な引用を用いながら語られる話は面白く、引き込まれる。そして、かなり踏み込んだプライベートの話まで語られていて、それ大丈夫なの?と変に心配してしまう部分もあった。
シニカルな人間はみな、内面では失望し悲しみを抱えた理想主義者なのだ。
下巻 p249
著者が関わった人々に対して、時としてかなり辛辣に評したりもしていて、それだけ彼は情熱を持って仕事をしていたんだな、ということがひしひしと伝わってくる。日本のIT業界とは様相が違うのかもしれないが、どういった人間たちがIT業界に集い、どんな人間ならやっていけるのか、そんな事が雰囲気として良く分かる本となっている。
著者
アントニオ・ガルシア・マルティネス
登場する作品
博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか (字幕版)
Founders at Work 33のスタートアップストーリー
28日後... [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
The Story of the Malakand Field Force (Unabridged): An Episode of Frontier War (English Edition)
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から騒ぎ シェイクスピア全集 17 (17) (ちくま文庫 し 10-17)
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