★★★★☆
あらすじ
幼い頃に出ていった父親が危篤になり、見舞いに行って、ついでに写真を撮ってくるように母親から言われた娘二人。
感想
ほとんど記憶に残っていない父親の元へ見舞いに行く娘たち。実の父親とはいえ、肉親が死ぬという実感はほとんど無く、軽い気持ちで出かけていく。そしてたどり着いた父親の実家で、親類たちに思わぬ態度を取られる。
この世の終わりに生き別れた実の娘に会わせてやりたい、という気持ちもわかるし、それに応えてあげたいという気持ちは分かる。だけど何年も顔を見せなかった人たちが突然現れたら、訝しみ警戒する親類がいてもおかしくはない。それでも良かれと思って訪れたのに、そんな態度を取られるたら流石につらい。
実の親とはいえ長年交信が絶えていた父親とその家は、彼女たちにとってはもう別の家族も同然だ。他の家族と交わることで見えてくるのは、自分たち家族のこと。よその家族を眺めながら、気づかぬうちに自分たち家族のことを強く意識してしまう。そして、そこにはいない母親の存在や生き様が見えてくる。
そして、父親の実家の家族たちも、彼らは彼らで自分たち家族のことを強く想っている。彼らの父親を思いやる姿が伝わってきて、ほとんど知らない他人の葬儀なのにこちらまで涙が出そうになってきた。よく考えると、意外と映画の中の葬儀のシーンで泣きそうになることというのは、ほとんど無いかもしれない。
映画はほぼ父親の見舞いに行く一日のみで構成されている。上手く伏線がはられ回収されていく展開で、ただ父親の実家に行って帰ってきただけの一日なのに、この母娘の三人がどんな家族なのか、そしてこれまでどんな風に暮らしてきたのか、見えてくるようになっている。温かな気持ちになれる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 中野量太
出演 柳英里紗/松原菜野花/渡辺真起子/滝藤賢一