★★★★☆
あらすじ
両親の心配をよそに、夢だった警察官になったウサギの少女。しかし、小型の草食動物という事で思うような仕事を任せてもらえず苦悩する。
感想
物語の世界観の紹介から主人公の立場の説明、そして地道な努力の末に幼い頃からの夢を叶え警察官になったことなど、本題に入るまでにしておかなければならない前提条件の描き方が見事だ。説明的にならず、冗長にもならずにテンポよく、そして観客の気分を盛り上げる描き方だった。すんなりと物語に入っていける。
すべての動物が仲良く暮らす社会という設定だ。獰猛だった肉食動物からおとなしい草食動物まで、象やキリンといった大型動物からネズミのような小動物まで、多種多様な動物たちが一緒に暮らしている。まさにダイバーシティ、多様性のある社会で、これを見ていたら人間の社会なんて大したことないなとさえ思えてしまう。
それぞれの動物のサイズに合った電車の入り口が用意されていたり、大型の動物の中では小さく、ネズミなどの小型動物の中にいれば大きい、ウサギの主人公の描写が面白い。実写では描けない、まさにCGアニメだからこそできる表現だ。
警官になる夢を叶えるも、大型動物ばかりの警察で中型の草食動物である主人公は上司に期待されず、簡単な仕事しか与えられない。現実社会にある偏見や差別の問題を連想させる。映画の中ではほとんど強調されていないが、主人公が女だという事も、現実社会の差別を暗示していると言えるかもしれない。
与えられた地味な任務をこなす中で、ひょんなことから主人公はあるカワウソの失踪事件の捜索を任される。こちらもたまたま知り合った「ずるがしこい」という偏見を持たれているキツネの男と共に捜査し、それが重大事件の解決にもつながっていく。期待されていなかった主人公が、偏見の目をはねつけて大活躍する胸のすく話だ。
ここでめでたしめでたしで終わっても何の問題もないのだが、さらに物語は続く。偏見に苦しめられていた主人公だが、そんな彼女も他の動物たちを偏見の目で見ているのではないか?という問題提起が行われる。被害者は常に被害者なわけではなく、加害者になることもある。被害者のつもりでいたのに、気がつくといつの間にか加害者になっていた、なんてこともある。
もしかしたら自分も何かを偏見の目で見ているかもしれないなと考えさせられてしまう展開だ。単純な新人警官の成長物語ではなく、深みのある物語となっている。そしてそんな内容なのに、全く説教臭くなく普通に楽しく見られるエンターテイメント作品になっているのがすごい。ほとんど文句のつけようがない完成度の高い作品だ。
スタッフ/キャスト
監督/原案 リッチ・ムーア/バイロン・ハワード
監督/脚本/原案 ジャレド・ブッシュ
製作総指揮 ジョン・ラセター
出演(声) ジニファー・グッドウィン/ジェイソン・ベイトマン/キャス・スーシー/イドリス・エルバ/ジェニー・スレイト/ネイト・トレンス/ボニー・ハント/J. K. シモンズ/オクタヴィア・スペンサー/アラン・テュディック/シャキーラ/タイニー・リスター・Jr./ジョン・ディマジオ/モーリス・ラマーシュ/クリステン・ベル