★★★★☆
あらすじ
農場主を追い出し、動物による動物のための生活を始めた農場の動物たち。
感想
自分たちから搾取する農場主を追い出し、動物のための自由で平等な社会を始めたはずが、結局は新たな独裁者が現れただけで、暮らしはより苦しくなってしまったという一種のおとぎ話的物語。すぐに全体主義の独裁国家になってしまいがちな社会主義国に対する風刺だなと気づくのだが、実際にソ連で起きた事をなぞった物語のようだ。そのせいか、色々な立場の動物の言動がとてもリアルだった。
読んでいてまず思うのは、皆で同じような暮らしを目指す社会主義は難しいという事だ。そもそも皆の理想とする暮らしが違う。誰にも縛られず自分の意志で生きることが出来るなら多くは望まないという人から、贅沢をしたい人や着飾りたい人、そしてとにかく特別扱いされたい人までいて、さらに言えば何も考えずに生きられるなら奴隷だって構わないという人すらいる。そんな人々の多様な価値観を無視して、同じような暮らしをしようとすればどうしても無理が生じ、不平不満は生まれてしまう。
そしてより良い社会を作りたいなら、常に意見を出し合って話し合うことが大事、という事だ。言いたいことがあるのに黙っていると、どんどんと意見を言う場がなくなっていってしまう。そしていつの間にか自分がまったく望んでいなかった社会の形になってしまっていて、それなのに、これでもまだましな方だ、と無理やり自分を慰めながら生きる事になってしまう。この物語で言えば、おかしな方向に進んでいることに気づきながらも何も言わずただ冷笑していただけのロバや、どこかおかしいなと思いながらも黙ってしまっていた他の動物たちよりも、独裁者の犬笛に反応して騒ぐだけの羊たちの方が、ちゃんと自分たちのためになることをしていたと言える。世の中をより良くしようとする時に一番厄介なのは、この羊たちのような権力に媚びるばかりの何も考えない権威主義者たちだとは思うが。
巻末に収められた著者の序文案で、この本の出版をビビって引き受けるところがなくて困った、という話があって何だか意外だった。東西冷戦だ、赤狩りだ、という時代があった事から考えると想像できなかったが、西側諸国がソ連に媚びる時代があったのか。著者は、検閲ではなく各出版社が自主規制していたことに怒っていたが、それから考えると、民主主義国家でもこの「動物農場」的な出来事が起きてもおかしくないなという気がしてきた。実際、小説の中には、最近の日本を連想させるような出来事が幾つもある。こんな風に、いつの時代のどこに住んでいる人にとっても全然他人事のように読めない作品だからこそ、この小説は時代を超える名作だと評されるのだろう。
ところで全く関係ないが、中国の若者たちが激しい競争社会に疲れて共産主義に関心を示し始め、「毛沢東良いこと言うわー」とか言い出していることに中国政府が慌てているらしい、という最近耳にした話は、皮肉が効いた寓話みたいで、この物語の続編になりそうだな、とちょっと面白かった。
著者
ジョージ・オーウェル
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