★★★☆☆
あらすじ
第一次大戦直前のドイツ北部の村で次々と起きた不可思議な事件。カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。
感想
通りに張られた針金に引っかかり医者が落馬する事故が起きて物語が始まる。気になるのは、明らかな悪意が見て取れるのに、周囲の反応が薄い事だ。ここから犯人探しが始まるのかと思いきや、曖昧な雰囲気のまま次の事件が起きる。
男爵、牧師、家令、医者らの一家が登場しその子供も多いので、人間関係を把握するのがなかなか大変だ。序盤は若干戸惑う。おおよその村の様子が分かり始めると同時に見えてくるのは、村内に漂う息苦しさだ。人々は宗教的に、封建的に、禁欲的に押さえつけられている。
そして抑圧する側の牧師や男爵ら有力者は、保守的で高圧的で独善的だ。何か言いたげなのに何も言えず、ただ夫の顔を見つめるしかない妻の顔が印象に残った。それにしても、被害者だと思っていた医者が一番酷くてひいてしまった。
その後も次々と起こる事件は、そんな抑圧に対する村人たちの反発だという事が次第に分かってくる。抑圧されているだけに、反抗はばれないようにこっそりと行われ、それに感づいても皆が見て見ぬふりをする。それが陰鬱な村の雰囲気を醸成していく。思えば、男爵への恨みで日中堂々とキャベツ畑を荒らした青年の行いは爽やかだったという事になる。あからさま過ぎて当然潰されてしまったが。
抑圧の連鎖の中で一番割を食うのが子供たちだ。ただ彼らも被害者として黙っているわけではない。大人たちの様子を窺い、そこから学んで狡猾さを身に着けていく。大人がいなくなった途端、少しずるそうな表情や態度を見せている。子供たちがぞろぞろと連なって事件の被害者のもとに行き、無表情な顔で同情を示すのは不気味だった。
権威を重んじる有力者たちは、その反面、権威が崩れることを恐れ、決定的な局面を避けようとする。数々の事件の犯人も曖昧なまま放っておく。事の真相が暴かれれば困ることもあるからだ。こうして権力者も虐げられている人たちも、だれも真相を探ろうとはせず、適当な理由をみつけて納得してしまう。そして、この姿勢が後のナチスドイツ政権下の民衆の姿へとつながっていくわけだ。
余計な説明はなく、淡々と物語は進んでいくので、物語に分かりにくさはある。ただ村の雰囲気を表すようなモノクロの映像が美しく、程よい難解さでついつい見続けてしまう。繰り返し見ることで色々と見えてくることがありそうな映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ミヒャエル・ハネケ
出演 エルンスト・ヤコビ/レオニー・ベネシュ/ウルリッヒ・トゥクル/ブルクハルト・クラウスナー/ヨーゼフ・ビアビヒラー/ライナー・ボック/ズザンネ・ロータ/ブランコ・サマロフスキー/ズザンネ・ロータ/クリスチャン・フリーデル
撮影 クリスティアン・ベルガー