★★★★☆
あらすじ
妻と子供に囲まれ、順調な家庭生活を送る男の元に、5歳の時に死んだと聞かされていた父親が突然現れ、家に住みつきはじめる。
キネマ旬報ベスト・ワン作品。
感想
順風満帆な人生を歩んでいた男の前に死んだはずの父親が現れる物語だ。いきなりのことでどうしていいか分からず、ひとまず家に招き入れたが、そのまま居着かれてしまう。この父親は山師的な男で、だから母親も愛想をつかしたわけだが、それだけにどこか近づきがたい貫禄もあり、気ままに過ごす目障りな彼に良家の妻や義母は面と向かって何も言えない。
だがそんな妻や義母が、鬼に扮した父親とキャッキャッと楽しそうに節分の豆まきを楽しんでいたのは印象的だった。また家の修繕や庭の手入れをしてくれる父親に感心してもいる。彼は厄介な存在ではあるが、居たら居たでそれなりにありがたいこともある存在なのだろう。結局、人間誰しも良いところはあって、存在価値のない者などいないのだ。なんとなく元気が出てくる。
そんな父親と主人公の家族との間で巻き起こるエピソードが、節分、ひな祭りなど季節感ある風景の中で描かれていく。中でも心に響いたのは、父親が一時期家を追い出され、ホームレスになっていた時の出来事だ。サラリーマンに絡まれていた父親を主人公が助けるシーンがあるのだが、この時主人公が、昨今よく耳にするようになった弱者たたきのようなサラリーマンの言い分に対して正論で反論する。真っ当な意見を久しぶりに聞いたような気がして、昔はこれが常識だったんだけどなと遠い目をしてしまった。
主人公と父親の親子関係がメインではあるが、その周囲の女たちの姿が強く印象付けられる映画でもある。情緒不安定な妻や凛とした義母、そして肝の据わった実母、皆が厄介な父親を前に微妙な変化を見せるのが面白い。父親役の山崎努も女たちを演じる女優陣も皆良くて、存在感の光る演技を見せている。
ひとりの男の出現が、皆に何らかの影響を与え、そして変化を呼んでる。人間賛歌を感じる物語だ。ラストの船上で皆が見せる清々しい表情がいつまでも心に残る。
スタッフ/キャスト
監督 相米慎二
脚本 中島丈博
出演
斉藤由貴/富司純子/山崎努/藤村志保/余貴美子/村田雄浩/*笑福亭鶴瓶/塚本晋也/河合美智子/寺田農/木下ほうか
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*友情出演
音楽 大友良英