★★★☆☆
あらすじ
妻との離婚交渉が不調の人気テニス選手は、電車で知り合った男に交換殺人を持ちかけられる。原題は「Strangers on a Train」。
感想
利害関係者よりも無関係の第三者が殺した方がバレにくいからと、互いの殺したい相手を交換して殺そうと持ち掛けられたテニス選手が主人公だ。酒場のブラック・ジョークとしてはありだが、知り合ったばかりの男にそんな話を持ちかけられたら戸惑うしかないだろう。
だが主人公は、離婚を頑なに拒絶する妻に殺意を抱き、一瞬その気になってしまう。ここから両者がどのように交換殺人を行うのか、互いに必ず実行する保証がないと裏切られる可能性があって怖いから、まずはその担保をどうするかだな、等と両者がどのように計画の詳細を詰めていくのかと想像していたのに、相手の男がすべてをすっ飛ばしていきなり主人公の妻に対する殺人を実行してしまったのには驚いた。
これでは主人公がたとえ乗り気になっていたとしても、ドン引きしてしまうのは当然だ。以後は、お前はいつ俺の父親を殺してくれるのだ?と男に付きまとわれる様子が描かれていく。交換殺人をどのように成功させるかではなく、サイコパスの男にストーキングされて脅される展開になるとは予想外だった。
70年も前の作品なので時代を感じてしまうのは否めないが、巧みな演出が随所に見られて、いちいち感心させられる。本当の殺人事件の前に一度被害者に悲鳴のような嬌声を上げさせて緊張感を高めるシーンや、テニスの試合で観客全員がボールを追って顔を左右に動かす中、男だけがじっと主人公を見つめる不気味なシーンなどは見事だった。
クライマックスのメリーゴーランドのシーンも、この時代の映画としてはかなりの迫力で、ラストに相応しい盛り上がりを見せてくれる。暴走するメリーゴーランドを止めようとヒーローみたいに決死の行動を取るおじいさんが面白かった。
執拗に主人公を追う男の姿を見ていると、その情熱を完全犯罪で自分の父親を殺すことに費やせばよかったのに、と思わなくもない。だが、無理のない筋の通ったストーリーで、良く出来たサスペンス映画だった。
スタッフ/キャスト
監督/製作
脚本 レイモンド・チャンドラー/チェンツイ・オルモンド
出演 ファーリー・グレンジャー/ロバート・ウォーカー/レオ・G・キャロル/ケイシー・ロジャース
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