★★★★☆
あらすじ
父親の死により豪邸が売却され、母親と共に兄の一家に世話になることになった末娘。キネマ旬報ベスト・ワン作品。
感想
父親の死により母親と共に一族の家をたらいまわしにされる娘が主人公だ。冒頭は立派な大豪邸で一族の集合写真を撮るシーンから始まるが、こんな盤石そうな一族なのに、当主が死んだだけでこうなってしまうのかと驚いた。子供たちが独立して、誰も家業を継いでいないらしいことも影響しているのかもしれない。
主人公は先ず長兄の家に世話になるのだが、その妻が怖かった。いつの間にか主人公と義母を召使い同然に扱い、友達が来れば邪魔だからどっかに行ってろと追い出す。特に、疲れ果てた義母を眠らせないために夜中に突然ピアノを弾き始める姿には狂気を感じた。
次に主人公らは長女の家に厄介になる。この長女はまともに見えたが、その息子が原因で母親に冷たく当たるようになってしまう。たとえ自分の母親といえども、自分の家族ができ、自分の生活を送るようになると、優先順位はどんどんと下がっていってしまうのだろう。表面的には子供たちが皆母親に対して慇懃に接しているので、昔はちゃんと親を敬っていたのだなと感心していたのだが、そんなことはなかった。親子間で生じる問題は今も昔も変わらない。
どこに行っても同じことの繰り返しだと観念した二人は、ボロボロで放置されていた別荘で暮らすことを選ぶ。なんだかんだで誰かの厄介になって肩身の狭い思いをするよりも、不便でも気楽な暮らしの方がいいだろうとは思ったが、一抹の寂しさを感じてしまう成り行きだった。
そんな主人公らの姿に感じていた痛ましさや居たたまれなさは、一周忌の法要で久々に日本に戻ってきた次兄が吹き飛ばしてくれる。二人の現状を知って兄妹たちを叱責する姿には、勧善懲悪的な爽快感があった。少しベタ過ぎる感じもあるが、これは戦時統制下にあったことも影響していたのかもしれない。
それでも兄妹の縁を切るためではなく、態度を改めてもらってやり直すためにこんな厳しいことを言うのだという彼の主張には感心した。日本人は、ぎりぎりまで我慢して限界が来たら捨て台詞を吐いて去りがちだが、我慢しなくても済むように早めに言いたいことを言って喧嘩する方が何倍も建設的で生産的だ。
これで終わってしまうと彼がカッコ良すぎるが、最後にカッコ悪い姿を見せてクスッと笑わせて終わるところが上手い演出だ。バランス感覚の良さを感じる。小津監督の後の作品「東京物語」などに通じるものを感じる映画だった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本
脚本 池田忠雄
出演 佐分利信/高峰三枝子/葛城文子/斎藤達雄/吉川満子/三宅邦子/坪内美子/桑野通子/飯田蝶子/坂本武
撮影 厚田雄治