★★★☆☆
あらすじ
1870年代ニューヨークの上流社会。名門の家長で弁護士の男は、スキャンダラスな噂で社交界を騒がしていた婚約相手の従姉に思いを寄せるようになる。
感想
上流社会の男が、婚約者の従姉であり、幼馴染である女と密かな愛を育む物語だ。主人公は婚約中で、女は離婚を考えヨーロッパから戻ってきた身と、両者共に微妙な立場にいる。互いにしがらみがなければ何も問題はなかったのだろうが、その立場や世間体が二人の恋を困難なものにした。だがそれが二人を燃え上がらせた側面もあるかもしれない。
ニューヨークの上流社会を舞台に繰り広げられる恋愛劇で、まずは華やかだが面倒くさそうな社交界の姿が浮かび上がってくる。夜な夜な集まって料理や服装を褒め合い、うわさ話に花を咲かせる様子は、暇を持て余した金持ちたちの遊びなのだろうなと思ってしまう。
だがそれだけでなく、これは金持ちが金持ちであり続けるための重要なシステムであることも窺える。金持ち同士でつながりを保ち、時に結婚などでその関係を強化しつつ、うわさ話でお互いの状況を監視し合っている。一時的に時代の波に乗った成金を加えたりもしながら、ひとつの大きな運命共同体として自分たちの富を維持する互助システムだ。
金持ち同士が親戚関係でつながっているなんてことは、世界中どこでも見られる光景だが、それはこのシステムがあるからだろう。この映画でも家同士の複雑な関係があり、それを把握するのに苦労する。だが彼らは、日々の集まりで繰り返される会話があるからずっと忘れずにいられるのかもしれない。我々も冠婚葬祭などで親戚が集まった時、「あの人誰?」とひそひそと確認し合ったりするが、彼らはそれを日々社交界でやっているわけだ。
そんな社会の中で繰り広げられる主人公の情事は、周囲の目を気にして密やかに行われる。おかげで彼らの心の動きが見えづらい。どこで愛が芽生え、相手がどこでそれに応え、どこで燃え上がったのかが曖昧だ。だが彼らの恋愛はそれくらい微かな合図を送り合いながら発展していくものなのだろう。その一つでも見落としてしまえば、取り返しがつかなくなるかもしれない危ういものだ。
いくつものしがらみをかいくぐりながら何とか愛を成就させようとしていた主人公だったが、密やかだと思っていた自分たちの恋愛が、社交界には筒抜けだったと気づいた時の、妙に冷ややかな反応は印象的だった。冷静に振り返ってみれば、バレバレな言動がたくさんあった。そして無邪気で何も知らないと思っていた妻のしたたかさが明るみになるのが怖い。
エンディングは数十年後に飛ぶ。かつての海辺の場面のように、彼女が自分の存在に気付いていることを感じながら、それでも主人公が背を向けるラストシーンにしんみりとしてしまった。結ばれない運命の二人だった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 マーティン・スコセッシ
脚本 ジェイ・コックス
原作 エイジ・オブ・イノセンス―汚れなき情事 (新潮文庫 ウ 14-1)
出演 ダニエル・デイ=ルイス/ミシェル・ファイファー/ウィノナ・ライダー/ジェラルディン・チャップリン/マイケル・ガフ/リチャード・E・グラント/ロバート・ショーン・レナード/ミリアム・マーゴリーズ/ジョナサン・プライス/スチュアート・ウィルソン/メアリー・ベス・ハート/ノーマン・ロイド/アレック・マッコーエン/シアン・フィリップス/(声)ジョアン・ウッドワード
音楽 エルマー・バーンスタイン
エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事 - Wikipedia