★★★☆☆
あらすじ
東西冷戦下、学会へ向かう途中で西ドイツに亡命しようとしていたアメリカ人物理学者は、無理やり付いてきた婚約者を持て余す。
感想
船でヨーロッパの学会に向かったポール・ニューマン演じる主人公。同行したジュリー・アンドリュース演じる婚約者との仲は睦まじいが、実は彼女の同行を拒んだのに無理やり付いてきたらしい。道中、何かを企んでいるらしい主人公は怪しげな行動を取っている。
そんな主人公に不審を感じて、必死に彼を追う婚約者。そもそも強引についてきているわけだし、その後も先にアメリカに戻れと言っているのに、黙って東ドイツにまで付いてきたりして、主人公にとっては相当面倒くさい女になってしまっている。
彼女にしてみれば主人公は婚約者なのに何も伝えられず、しかも亡命して東側に機密情報を持ち込むなんて祖国の裏切り者だし、その真意を問い質したかったのだろう。分からないでもない。でもその強情さが若干イライラさせられた。空気を読めよと。
その後主人公の真意は明らかになるが、その途中で事件が起きてしまい苦しい立場におかれることになる。あとで振り返れば、この事件のきっかけとなった主人公らがドイツの片田舎で接触するという計画自体が失敗だった。
目立たないようにという事でそうしたのだろうが、逆にそんな人のいない所で会えば逆に目立つし、見つかった時に言い訳もしづらい。普通に都会の雑踏の中で会うべきだった。そうすればその後はゆっくりと作戦を実行できたはずだ。
ただそのおかげで、少しモヤモヤする前半とはうって変わって、後半は限られた時間の中でやり遂げばならないという緊迫感のある展開となった。一連の脱出シーンはハラハラさせられ、特に様々な事が起こるバスの中のシーンは良かった。
しかし、この時代になっても逃亡兵による山賊みたいなのがいたり、涙ながらにアメリカに亡命したいと訴える老女を登場させたりと、共産国の負の側面を強調しているのが印象的だった。よく考えれば冷戦の真っただ中で作られているわけで、そう考えると別の意味での緊張感もある。ヒッチコックもプロパガンダというか忖度をするのだな、と思ったが、わりと彼は赤狩りに肯定的だったようだ。そして実際に、理想には程遠い共産国の現実が明らかになっていた時期なのかもしれない。
ところでこの映画に婚約者の存在は必要だったかな、と一瞬思ったのだが、彼女を通して見たからこそ、序盤の主人公の行動にミステリーが生まれたわけだし、彼女がいるからロマンス的なことも出来た。そう考えると彼女は、映画を盛り上げるという意味では重要な役割を果たしていることになる。
主人公たちが東ドイツに到着したときに登場する勘違いおばさんが、ちょっとした笑いを提供するその場だけのキャラクターかと思ったら、終盤に再登場して重要な役割を果たす。嫌な感じのキャラクターなのに、どこか憎めない所があって面白かった。いい仕事をしている。
それから古い外国映画だと、登場人物の顔が覚えづらかったりするが、この映画では登場人物の顔が皆個性的で、簡単に覚えられたのも良かった。
スタッフ/キャスト
監督/製作
出演
ジュリー・アンドリュース/リラ・ケドロヴァ/タマラ・トゥマノワ