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「さかなのこ」 2022

さかなのこ

★★★★☆

 

あらすじ

 小さなころから魚が好きだった少年は、将来、魚の博士になることを夢見て成長していく。

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 さかなクンの半生を描いた作品。

 

感想

 魚好きの少年であった主人公が「さかなクン」になるまでの半生が描かれる。特異なキャラである「さかなクン」だが、幼少期の母親の影響が大きいことがよく分かる。魚に興味を示す主人公が望むことを、母親はすべて叶えてあげようとしている。

 

 親なら誰だって子の望みを叶えてあげたいものなのだろうが、近所の怪しげな魚好きのおじさんの家に一人で行かせたり、好きなことだけやって勉強が出来なくても構わないと注意しなかったりと、彼女の場合は度を越している。子供を甘やかし続けたらどうなるかの実験でもしているのかと疑ってしまうほどだ。狂気すら感じるが、その根底にあるものは見えない。

 

 

 そんな環境で伸び伸びと育った主人公はもちろん自由だ。当然学校に行けば目立ってしまう。さっそく同級生たちの、いじめに発展しそうなからかいの対象となる。だが主人公がこの試練を軽々と切り抜けてしまったのは可笑しかった。そうやって対処すればいいのかと感心してしまった。

 

 ここからは主人公の孤高ぶりが際立つ。独自の道を突っ走る彼に、誰もが調子を狂わされ、彼のペースに巻き込まれていく。これくらい突き抜けていたらもはや彼をどうこうしようとする気はなくなって、無条件で認めるしかなくなるのだろう。彼自身はそれほど友だちを求めているようには見えなかったが、自然と周りに人が集まってくる。水と油に見えたヤンキーたちとの交流は微笑ましかった。

 

 だがそんな主人公も、学校を出てからは苦労する。自分の好きなことをやり続けたくても、その前に生活をしなければならない。魚関係の仕事をしつつ、どこか満たされない悶々とした日々を過ごすことになる。やりたいことがはっきりしていてもそれが世にある職業でない場合、社会と折り合いをつけるのは難しい。

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 壁にぶつかっていた主人公が、彼のキャラを愛する昔の仲間たちの協力によって世に出ていくことになる流れは感動的だった。与えられた仕事だからとそこで頑張り続けるのではなく、向いてないなと思ったらちゃんと辞め、やりたいことを求め続けたことも大きいだろう。もしかしたらクビにされた方が多かったのかもしれないが。

 

 初のテレビ出演時、収録中のスタッフたちが皆一様にニコニコしていたのが印象的だったが、主人公にはそうやって温かく見守りたくなる何かがある。そんな主人公を演じるのんが素晴らしかった。彼女が演じることでさかなクンの中性的なキャラも際立ち、おそらく男性が演じるよりも2割増しくらいで魅力的になっていた。つまり、さかなクンはのんくらい可愛いキャラということになるのか?

 

 好きなことを突き詰めていけばこんな未来が待っているかもよ、という物語だが、実際はそんな簡単な話ではないだろう。主人公だってさかなクンが演じていた近所のヤバい魚好きのおじさんのようになっていた可能性だってある。

 

 しかも冷静に考えれば、つぶしの利く「魚」を好きになったのも幸運だった。例えば「妖怪」とか別のものが大好きになっていたら、それで生きていくのはもっと難しかったはずだ。妖怪関係の仕事なんてアルバイトでも簡単に見つからない。

 

 のびのびと育ち、「普通」には目もくれずにオリジナルな道を突き進んだように見える主人公だが、家族がいつの間にかいなくなっていたり、転がり込んできた女友達に人並みな幸せを思い描いてみたりと、必ずしも何の悩みも苦労もない、順風満帆な恵まれた人生を歩んできたわけでないことが垣間見える描写もあり、深みがある。

 

 さかなクンのキャラクター通りのコミカルで面白い映画だ。そして、楽しい中にも色々と考えさせられてしまう映画でもある。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 沖田修一

 

脚本 前田司郎

 

原作 さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~

 

出演 のん/柳楽優弥/夏帆/磯村勇斗/岡山天音/さかなクン/三宅弘城/井川遥/宇野祥平/鈴木拓/島崎遥香/賀屋壮也/長谷川忍/豊原功補/

 

さかなのこ - Wikipedia

 

 

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