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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「天城越え」 1983

天城越え

★★★★☆

 

あらすじ

 家出をして下田から天城を越えた少年は、途中で一人の若い女と出会う。 

 

感想

 峠で少年と出会う若い女役の田中裕子がいい。今観てもドキドキさせられるが、中学生の時に観ていたらもっとドキドキして、変な性癖を発症してしまいそうだ。少し映画「白蛇抄」を思い出した。彼女演じる若い女が、少年にとって女性の象徴となった。優しく可愛らしく色っぽいが、したたかで気が強く、そして気まぐれな面も持っている。 

白蛇抄

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 それから刑事役の渡瀬恒彦もいい。血気盛んな若い頃と、動きは緩慢だが鋭さは失っていない老人と、2つの年代を演じ分けている。特に老人役は、ゆっくりとした動きと抑揚のない声のトーンなど、よく特徴を掴んでいる。実際に彼が老齢に達した時は、もっと若々しかったが、もしそんな感じで演じていたら、下手くそか、と言われていたはず。すでに老齢に達している人の、若い時の老人の演技を見るのは、比較ができるのでなかなか面白いかもしれない。

 

 そんな二人が中心となって展開される取り調べのシーンは、随分と乱暴で逆に笑えてきた。暴力ありで、トイレにも行かせないという、全く人権無視のアウトな現場。二人の迫真の演技で、見ごたえのあるシーンになっている。取調室が畳の和室というのも趣があっていい。

 

 

 家出をするも不安で、出会う人に犬のようにホイホイとついていく少年は、いかにもまだ子供。でも当たり前の話なのだが、昔の人はみんなこうやって山の中を歩いていたのかと想像すると、すごいなと感心してしまう。しかし、今ではその何百倍も動けるようになったのに、人々の生活は何百倍も良くなったわけではないのは何でだろうと不思議な気分になる。相変わらず日々の生活に追われて余裕はない。

 

 山中で起きた殺人事件。被害者の男は、よくよく考えてみると何一つ悪い事をしておらず、気の毒としか言いようがない。行き倒れ寸前だったというのであれば、最後に天国と地獄を見たということになる。寂しく死んでいくのとどっちが良かったのか。彼は運悪く、少年の純真な心を踏みにじる汚い大人の男のシンボルとなってしまった。

 

 彼に母親に言い寄る叔父さんの姿を重ねてしまった少年の、独りよがりな行動なのだが、あのシチュエーションで、少年のその気持ちは分からなくはない。中盤の雨の警察署の前で、きっと察していたであろう若い女と少年が見つめ合うシーンは、事件の全容を知ってから振り返るとなかなか感慨深い。

 

 エンディングロール後の、バイクに乗った若者たちが、ふらふらと天城トンネルの中へ吸い込まれていくカットも意味深だった。いい余韻に浸れる映画。

 

 ちなみに石川さゆりの天城越えは関係ない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 三村晴彦

 

脚本 加藤泰

 

原作 「黒い画集」所収 「天城越え」

 

製作 野村芳太郎/宮島秀司

 

出演 渡瀬恒彦/田中裕子/石橋蓮司/樹木希林/加藤剛/平幹二朗/北林谷栄/吉行和子/佐藤允/小倉一郎/山谷初男/伊藤克信/車だん吉/阿藤快/加藤剛/坂上二郎

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天城越え

天城越え

  • 発売日: 2013/11/26
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天城越え (松本清張) - Wikipedia

 

 

登場する作品

伊豆の踊子 (角川文庫)

 

 

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