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「肉体の門」 1988

肉体の門

★★★★☆

 

あらすじ

 戦後の混乱期に、女だけの売春組織を率い、やがては皆が楽しく暮らせるパラダイスを夢見る女。

 

感想

 女だけの売春組織を作り、自分たちの力だけで生きてきた女たちが、一人の男を迎え入れたことからその結束が揺らぎだす。その男を演じた渡瀬恒彦の登場シーンが痺れた。タバコを燻らせ、低く渋い声で主人公に語りかける。もうこのシーンだけで、女たちがおかしくなってしまうのも分かるような説得力があった。

 

 序盤は、かたせ梨乃演じる主人公と名取裕子演じる敵対する組織のリーダーとのいざこざが中心となって描かれる。この二人の対決は往年のヤンキードラマのようなバチバチ具合で面白い。本人たちは真剣なのだろうが、傍から見るとコミカルだ。

 

 そして二人の間にはやがて友情が芽生える。不安定な時代に、自らの命を張って生きる女同士だからこそ分かり合えるような、相通ずる何かがあったのだろう。女たちの心の中には、勝手に戦争を始めたくせにボロボロに負け、自分たちに惨めな思いをさせた日本の男たちに対する怒りがある。そして親兄弟を殺されたアメリカに対しても許せない気持ちがある。もはや誰にも頼れない、頼りたくないという気持ちがあるからこそ、彼女たちは自力で生きていく覚悟をしたのだろう。

 

 

 前半はもうちょっと女同士で仲良く頑張っているシーンがあった方が良かったような気がして物足りない感があったが、仲間内の結束に綻びが見え始める中盤以降からは俄然面白くなってきた。虚勢を張っていた女たちの情念がむき出しになっていく。

 

 イメージビデオみたいに踊り狂うかたせ梨乃や、強風を顔面にもろに受けて不細工にブルブル震える西川峰子のスローモーションの顔など、激しいラストのシークエンスには思わず笑ってしまいそうになったのだが、それでも彼女らの生きざまに強く心を打たれている自分も確かにいた。これもまた、本人たちが真剣であればあるほど、外野には滑稽に感じてしまうというやつなのだろう。

 

 常に主人公らを気にかける彫り師の老人を演じる芦田伸介が、物語が進むにしたがってどんどんと存在感を増していき、いぶし銀の活躍を見せている。「みんなのパラダイスなんてない、それぞれのパラダイスがあるだけだ」という彼の言葉が妙に心に響いた。確かにそうかもしれない。それでもみんなで夢を見たくなるものなのだ。それがなければ生きていられない時だってある。

 

スタッフ/キャスト

監督 五社英雄

 

原作 肉体の門――田村泰次郎傑作選 (ちくま文庫)

 

出演 かたせ梨乃/渡瀬恒彦/芦田伸介/根津甚八/名取裕子/加納みゆき/山咲千里/長谷直美/芦川よしみ/西川峰子/松居一代/マッハ文朱/志賀勝/光石研

 

肉体の門

肉体の門

  • かたせ梨乃
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肉体の門 (1988年の映画) - Wikipedia

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