★★★★☆
あらすじ
大学リーグのスター選手をめぐって、激しい争奪戦を繰り広げるプロ野球スカウトたち。
感想
将来有望な大学の野球選手を巡って、コーチや家族を巻き込みながら繰り広げられるプロ野球スカウトたちの争奪戦が描かれる。タイトルもそうだが、コーチの事を「ひも」と呼んだりと、なかなか直截で明け透けな表現をしている。
しかし、こういう将来有望な選手がプロ入りする際に生じる問題は今でも時々起こるが、これの一番の問題は、コーチや家族が必要以上にしゃしゃり出てくることだろう。建前上は、まだ学生だからとか、金銭にまつわることだからとか、もっともらしい事を言うが、でも同年代の若者たちは自分たちで就職先を決めているわけで、彼らも同様に扱わないと筋が通らない。
そもそも自分のことも決められない人間を社会に出そうとしているのか、という事にもなる。本人が将来の事はコーチに一任しますとか、家族と相談して決めますとか言うならまだしも、彼と話をするにはまず自分を通してくれないと、などというのは間違っている。本音はただ自分も一枚噛んで美味しい思いをしたいだけの事だろう。
そんなコーチや家族を相手に何とか取り入ろうとするスカウトたち。事あるごとにプレゼントや金銭を渡し、接待へと連れ出す。相手も次第に欲が出て、競合相手を引き合いに出して、多くを手に入れようとする。まさにキツネとタヌキの化かし合いだ。
主人公は、そんなタフな駆け引きを繰り広げるスカウトの一人だ。演じる佐田啓二はまるで少し前の香港スターのように男前。冷静に相手をジャッジして、ときに罠を仕掛けたりと、どこかニヒルな雰囲気を漂わせていて、とても良かった。
物語は、だいたい争奪戦の勝負はあったかなと思ってから、その後が長かった。相手方が態度を変えたり、主導権を握る人物が変わったり。交渉事は最後まで何があるか分からない、という事がよく伝わってくる。大金も動いて、見ているだけで焦れてくるような展開だった。
最後は、どんよりと重苦しい気分になってしまうようなエンディングだ。でもこういう感じ、嫌いじゃない。結局、相手が一枚上で、してやられた事になるのだろう。だがよく考えると、思い通りにはさせないまでも関係者みんなにそれなりに良い思いをさせることができたわけで、彼は実は結構いい奴なのでは?という気がしないでもない。
スタッフ/キャスト
監督 小林正樹
脚本 松山善三
出演
岸恵子/大木実/伊藤雄之助/水戸光子/東野英治郎/三井弘次/織本順吉/花沢徳衛
音楽 木下忠司
撮影 厚田雄春