★★★☆☆
あらすじ
京都の老舗和菓子屋を継ぐことになった若い女は、妻子ある画家の男に恋をする。
感想
冒頭、古い屋敷の中でコテコテの和服を着たおじさん達が、コテコテの京都弁で何やらややこしそうな相談をしている様子を描いた後、現代風のカラフルな服装で颯爽と登場する岡田茉莉子演じる若い主人公が鮮烈だ。
この映画はこの他にも、提灯の灯りだけで暗い屋敷内を老女中が案内する様子や、友人の結婚式から帰って来た時のシーン、それにラストシーンなど、映像的に面白い表現が随所に見られる。それとは逆に音楽は、いつか殺人事件が起こりそうなサスペンス調で少し違和感があった。
前半は主人公が和菓子屋を再建する様子と女友達二人の恋愛話が中心となって物語が進む。しかし未経験の若い女がやって来ただけなのに、営業自体を止めていた老舗の和菓子屋がこうも簡単に再建できてしまうものなのか、と驚いてしまう。
もちろん元々いた従業員たちが戻って来たからではあるのだが、経緯が説明されるベテランの職人以外は皆それまでどこで何をやっていたのだ?と不思議だ。こんな事が平然と出来てしまうのが京都の奥深さなのかもしれないが。
そして、素人の女主人を馬鹿にすることなく盛り立て、はんなりとした言葉使いでテキパキと仕事をこなす職人たちの姿がとても良かった。職人は気難しいから陰口を叩いたり、後輩を怒鳴りつけたりするのだろうと思っていたので意外だったが、それだけ店の再建を喜んでいるという事なのだろう。
店も順調で友人達の色恋沙汰も落ち着いた後半、ようやく主人公の恋愛話が始まる。相手は佐田啓二演じる画家の男だ。だがこの二人の恋愛には色々と気になる事がありすぎる。
まず引っかかるのは男が妻子持ちで、さらに主人公の母親とも昔から現在まで関係があるらしいという事だ。男は恋人の娘に手を出そうとしているわけで、主人公はそれを知った上で受け入れようとしている。そんな気持ちになれるものかと釈然としないものがある。
色々おかしいのは男だとは思うが彼だけでなく、主人公になぜか男を紹介した主人公の母親も含めてみんな少しずつおかしい。
二人の恋愛描写は、最初は分かるか分からないかくらいの微妙なものしかなかったくせに、付き合い始めた途端に一気に激しくなる。クライマックスともいえるボートでのシーンは、突然の激しい展開に、え?と思ってしまったのだが、これにトキめくことが出来た人ならきっと最後までこの映画を楽しめるはずだ。自分は朝ドラから昼メロ的展開に変わってしまった後半は全然楽しめなかった。
スタッフ/キャスト
監督 吉村公三郎
脚本 新藤兼人
原作 「五条坂 (1960年)」「愛する権利 (1960年)」
出演 岡田茉莉子/乙羽信子/真木康次郎/澤村國太郎/金剛麗子/樋口美子/殿山泰司/森美樹/河内桃子/中村鴈治郎(2代目)/高千穂ひづる/北上弥太朗/西田智/富本民平/滝花久子/北条喜久/和歌浦糸子/高山裕子
音楽 黛敏郎