BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「あした来る人」 1955

あした来る人

★★★☆☆

 

あらすじ

 ホテルの一室で仕事する実業家の元に、本出版の資金援助を求める学者の男が、娘の紹介でやってくる。115分。

www.youtube.com

 

感想

 実業家の娘夫婦に愛人、そして娘の知り合いの学者と、実業家周辺の四人の若者を描いた群像劇だ。だがこの若者たちは皆少しおかしい。

 

 娘夫婦の夫は妻に黙って山登りに出掛けてしまうし、妻は夫が遭難した知らせを受けても駆けつけることはない。不仲というよりも嫌い合っているといった方がいいだろう。最低限のコミュニケーションも築けず、なるべく顔を合わせないようにしている。

 

 

 そして愛人は実業家の出資で洋裁店を営んでいる。これ自体は珍しくもなんともないが、実業家とは厳密には愛人の関係ではなく、それがまた話をややこしくている。実業家は彼女を娘のように可愛がっており、彼女は男の本当の愛人になりたいと思っている。

 

 この中では、学者の男が一番真っ当だといえるが、初対面の人にも相手の興味に関係なく、自分の研究について延々と語り続けてしまうような男である。誠実そうではあるが、付き合うとうんざりしてしまいそうだ。

 

 そんな4人の男女がシャッフルする四角関係が描かれていく。いけない関係に臨む態度は4人それぞれだが、愛人のそれが一番よく分からなかった。他人の夫でも構わずグイグイ行くくせに、それがパトロンの娘婿だと知ると途端に躊躇してしまう。彼女なりに複雑な感情はあるのだろうが、中途半端で面倒くさい人に思えてしまった。

 

 ある夫婦が別れて、お互い新たな相手とよろしくやるだけの都合の良いメロドラマ的な展開かと冷ややかに見ていたのだが、ここで突然、それを見ている実業家の視線が入ってくるのが面白かった。彼は、若者たちの行動に感銘を受けている。

 

 きっと実業家の世代は、夫婦はどうあろうと一緒にいるもの、妾は妾らしくしているもの、会社員になったらその会社で一生働くもの、そういうものだと思い込んで生きてきたのだろう。ある意味で状況に身を任せ、人生に期待することなくあきらめていた。

 

 しかし若い世代は置かれた状況に甘んじず、より幸せになろうともがいている。希望を持てば失望することもあるのに、それでもよりよい明日が来ることを夢見る若者たちの姿は新鮮で、新たな時代の到来を実感していたのだろう。

 

 今は再び、人生なんてこんなもの、期待するだけ無駄だとあきらめて生きる時代になっているように感じる。明るい未来を信じて生きる世代が誕生することがまたあるのだろうかと、遠い目をしてしまった。

 

 

スタッフ/キャスト

監督 川島雄三

 

原作 あした来る人

 

出演 山村聰/三橋達也/月丘夢路/新珠三千代/三國連太郎/小夜福子/小沢昭一/高原駿雄/金子信雄/天草四郎/高品格

 

音楽 黛敏郎

 

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com