★★★★☆
あらすじ
数々のヒット曲に貢献しながらも注目されることがなかった女性コーラス歌手たちの姿に迫るドキュメンタリー映画。
原題は「20 Feet from Stardom」。アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞。
感想
マイケル・ジャクソンやブルース・スプリングスティーンなどのヒット曲に参加していた女性コーラス歌手たちの素顔に迫る。登場する彼女たちの顔や名前にピンと来なくても、きっと普通に音楽を聴いてきたならその歌声をどこかで聞いているはずなのだろう。
彼女らがミック・ジャガーやジョー・コッカーらイギリスのミュージシャンたちから引っ張りだこだった話は興味深かった。また、フィル・スペクターの横暴エピソードがさらっと語られているのも面白い。
実力は申し分のない彼女たちだったが、その後ソロデビューするも苦労し、大成はしなかった。スティングが言っていたように、スターになるには実力だけでは駄目で、運や時勢をとらえてそれを活かす力が必要なのだろう。出演していたメリー・クレイトンのソロ活動時の映像はビジュアルも含めて普通に良さげだったが、それでもダメだったのかと、この世界の難しさを感じさせる。
原題の「20 Feet from Stardom(スターまで20フィート)」は、いいタイトルだ。彼女たちはスターの20フィート(約6メートル)後ろでコーラスをしていたが、自身はスターになれなかった。6メートルまでは迫れたのに、その先のスターの位置までがとてつもなく遠かったことが伝わってくる。
その後またバックコーラスの仕事に戻る彼女たちだが、元々オファーが来るのを待つしかない不安定な職業だ。経済的な理由で業界を離れ、家政婦になった人もいる。それでもこの仕事を続けたり、再び戻ってきたりしたのは、歌が好き、というシンプルな理由に尽きるのだろう。彼女たちを突き動かしていたのは「スターになりたい」ではなく、「歌を歌っていたい」という願望だったのかもしれない。それを何十年と続けることが出来ているのだから、彼女たちは間違いなく一流だ。
彼女たちが、最近はコーラスの仕事が少ないと嘆いていたが、一人でも音楽が作れてしまうような時代にコーラス歌手を使うことは贅沢なことなのかもしれない。今、そんなベタで贅沢なスタイルの音楽があれば、新鮮に聴こえるような気もする。
彼女たちの存在を意識しながら往年のヒット曲を聴き直してみたり、彼女たちの不遇だったソロ活動時代の音楽を聴いてみたりしたくなるような映画だ。サントラも良い。
スタッフ/キャスト
監督/製作 モーガン・ネヴィル
出演 ダーレン・ラヴ/メリー・クレイトン/ジュディス・ヒル/リサ・フィッシャー/クラウディア・リニア/タタ・ヴェガ/ミック・ジャガー/ブルース・スプリングスティーン/スティング/スティーヴィー・ワンダー/ベット・ミドラー/シェリル・クロウ/クリス・ボッティ/パティ・オースティン