★★★★☆
内容
日本で最もCDが売れた年、1998年にデビューした宇多田ヒカルら4人の女性アーティストについて考察する。
感想
1998年は宇多田ヒカルが「Automatic」で鮮烈にデビューした年。しかし、椎名林檎やAiko、浜崎あゆみも同じ年にデビューしているという事実は意外な感じがした。ちなみに女性歌手ではその他にも、Misia、Kiroro、モーニング娘、鈴木亜美らもこの年にデビュー。
著者は、日本のポップ・ミュージック界で他のミュージシャンは宇多田ヒカル、椎名林檎、Aikoの足元にも及ばないと言い切っていて、音楽評論家としてやりにくくなってしまわないかと勝手に心配してしまった。じゃあ、この三人以外に取り上げている浜崎あゆみは?ってなってしまうわけで。その分、しがらみにとらわれず、覚悟して書いているということが伝わってきて信用できる。
まずは98年を基準としてその16年前と16年後の音楽界を比較しているのだが、16年前に売れていたアーティストたちがほとんど第一線からいなくなったのに対し、98年に売れていたアーティスト達の多くは今も第一線にいる、という比較は面白かった。何の違和感も感じていなかったが、彼女たちの他にもミスチルやB'zなど数多くのアーティストが未だに最前線で活躍しているということは、日本の音楽史上珍しい事なのかもしれない。それ以前から活躍するサザンや中島みゆきらもいるが、全体的にアーティストの息が長くなったということか。
それから、4人の女性歌手それぞれについて語られていくのだが、あまり付き合いのなさそうな彼女たちの意外なつながりも分かって興味深い。なかでも、椎名林檎について書かれた章は、彼女のデビューのいきさつが、その後の音楽活動に影響を与えているのではと推察していてなるほどなと思わさせられた。一見、孤高に見える彼女が一番、日本の音楽シーンの事を考えているのかもしれない。
それとは逆に一番親しみやすそうなキャラクターのaikoについては、ディスっているようにみえなくもない文章でちょっとイメージが変わった。ただアーティストとしては音楽を作って歌うことが何より重要で、それ以外の事にどのように対応するかはそれぞれの考えがあるというだけの話なのだろう。
つまり、音楽ジャーナリズムの名の下に発表される記事は良くも悪くも「ライターの作品」なのだ。そして、その基準からすると、日本には音楽ジャーナリズムはほとんど存在せず、あるのはアーティストとメディアの「馴れ合い」ということになる。
p174
それ以外ではこの部分が心に残った。もっと言えば音楽ジャーナリズムだけではなく、日本のジャーナリズム全体にいえることのような気がする。ただ最近はちゃんと音楽について語る文章を目にする機会も増えてきているような気がするので、それは良い兆候といえるだろう。
そして今は、コロナの影響でCDの売上からライブの売上へとシフトしてきた音楽業界にとっては苦しい状況になっている。ネット上の活動など新たな動きが出てきているが、また大きな変化が起きる時が近づいているのかも、と思ったりもした。
著者
宇野維正
登場する作品
夢を食った男たち 「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫)