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「チャイルド44 森に消えた子供たち」 2015

チャイルド44 森に消えた子供たち(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 戦争の英雄としてソ連の国家保安省(MGB)のエリート将校だった男は、ある事件がきっかけで左遷されてしまい、以前から気になっていた幼児連続殺人事件を本格的に調べ始める。137分。

 

感想

 冒頭でいきなりソ連とウクライナの暗い歴史に言及するので、タイムリー過ぎて軽く動揺する。ただその後は触れられなくなるのであまり本編とは関係ないのかなと油断していたら、最後につながってきた。戦争は終戦となれば終わりなのではなく、その後も人々に影響を及ぼしつづけるものなのだなとつくづく思う。それは体験者だけでなくその子供にも引き継がれてしまう事もあり、そう考えると戦争がまったくの過去の出来事と言えるようになるまでには100年ぐらいはかかってしまうような気がする。

 

 エリートだった主人公が左遷され、気になっていた幼児連続殺人事件の捜査に乗り出すストーリー。主人公が左遷された理由は、忠誠度を試されてそれに応えることが出来なかったからなのだが、白いものを白いと言ったら不評を買ってしまったというのがなんだか納得できない。白いものを白いと言う人間を拒絶し、白いものでも黒いと言える忖度できる人間を優遇するなんて組織にとっては不利益にしかならないはずなのだが、ソ連では有効なのだろう。皆が困ろうがたった一人の独裁者が満足すればそれでいい独裁国家。

 

 

 世間には、理想はゆるい独裁国家、などと考えている人がいるらしいが、「ゆるい」独裁があり得ると思っている時点で相当お花畑だと言える。独裁が時間と共にどんどんと過酷なものになっていくのなんて自明の話だ。

 

 映画はそんな独裁政権下の理不尽が多く描かれていく。そもそも、スターリンがソ連は楽園で、楽園では殺人は起きない、と発言したことから公式には殺人事件は発生しないことになっていて、主人公らが事件として調べ始めただけで危険視されてしまうというのが相当ヤバい。これは逆に潜在的なシリアルキラーにとってはやりたい放題というわけで、殺人鬼にとっての楽園になってしまっている。その他にも、政府に目をつけられて家族皆で死ぬのか誰かを切り捨てるのかの決断を迫られたり、相思相愛だと思っていた女性が実は自分の背後にいる国家を恐れて服従しているだけだったと判明したりと、なかなかの暗黒ぶりが垣間見えるシーンが随所にある。

 

 事件の捜査を進める主人公だが、捜査よりも政府の妨害をいかにかわすかのほうが大変で、事件の謎を追うミステリーというよりもサスペンスと言った方がいいような内容となっている。実際、案外あっさりと犯人も見つかってしまうので、舞台がソ連でなければ30分ぐらいで終わってしまう内容だったかもしれない。

 

 2時間以上あるがその長さを感じさせない緊張感があり、それなりには楽しめる映画だ。ただ見終わった後にスッキリしないものが残ってしまうのも事実。まず何と言っても、主人公がなぜ身の危険を省みずに事件の捜査を強行したのかが分からない。一応は左遷されて半ばやけくそだったからという事なのだろうが、大して関わりのない事件に命を懸けたくなるほどの説得力のある理由は提示されなかったので、釈然としないものがずっと残った。同様に妻や左遷先の署長がノリノリで協力するのもよく分からない。

 

 それから、とうとう政府に捕らえられるも命からがら脱出した主人公らが、そこで逃亡するでも体勢を立て直すでもなく、そのまま流れるように捜査を再開したのも不自然に感じられた。ただ主人公の妻が、ピンチになる度に毎回必死に夫に助けを求めるわりには案外自力で敵を倒していて、意外と強くてたくましいのは面白かった。

 

 事件の捜査も犯人の異常性も、ウクライナの孤児院出身の主人公の生き様も独裁政権下のソ連の描写も、何もかもが中途半端に詰めあわされているだけといった印象の映画だ。最終的に主人公は独裁政権下に再び居場所を得ただけだし、結局何が描きたかったのだろうと思ってしまった。

 

スタッフ/キャスト

監督 ダニエル・エスピノーサ

 

脚本 リチャード・プライス

 

原作 チャイルド44 上巻 (新潮文庫)


製作

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マイケル・シェイファー/グレッグ・シャピロ

 

出演 トム・ハーディ/ゲイリー・オールドマン/ノオミ・ラパス/ジョエル・キナマン/ジェイソン・クラーク/ヴァンサン・カッセル

 

チャイルド44 森に消えた子供たち - Wikipedia

チャイルド44 森に消えた子供たち 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

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