★★★★☆
あらすじ
大恐慌の中、家族を支えるために苦しい生活を送っていたピークを過ぎたボクサーに、ビッグマッチのオファーが舞い込む。
大恐慌時代に活躍した実在のボクサー、シンデレラマンことジム・ブラドックを描いた伝記映画。144分。
感想
ボクサーとしての全盛期を迎えた主人公の姿から映画は始まる。リングで大歓声を浴び、試合後はファンに囲まれ、そして家族が待つ大きな家に帰る。そこから一気に5年の月日が流れ、主人公一家の変わり果てた生活が映し出されるシーンは劇的だ。
大恐慌により家を失った主人公は、狭いアパートに移り住み、港湾関係の日雇い仕事で何とかその日を乗り切っている。ボクサーとしてのピークは過ぎて、少ない報酬で罵声を浴びながらなんとか選手を続けている状態だ。選手としての下り坂と重なった不運があるとはいえ、大恐慌がこうも人の人生を狂わすのかと怖くなる。
主人公は必死に家族を支えようとするも、思うように日雇いの仕事は得られず、不甲斐ないボクシングにもギャラが支払われずに困窮していく。電気代も払えず困り果てた主人公が、ボクシング界の仲間たちに救済を頼み込むシーンには身につまされるものがあった。そんな彼の窮状に皆が少しずつ援助する。苦しい者同士が助け合う姿は美しい。辛い中にも救いはあった。
やがて主人公は欠場選手の代役としてビッグマッチのオファーを受けたことからチャンスを掴み、再びチャンピオンを目指すようになっていく。その最初の試合でほぼ互角の相手に対し、心理戦で圧倒して勝利を収めたのは、ボクシングがテクニックの差だけで決着がつく単純なものでないことを端的に表現していて巧みな演出だった。こいつは倒せないと相手に思わせた者が勝つ。
その後はクライマックスのタイトルマッチまで、王道のボクシング映画的展開となる。ベタで結末も読めてしまうのだが、結局それでも胸が熱くなる。ボクシング映画あるあるだ。判定になれば勝つと分かっているのに、リスクを冒して倒しに行く最終ラウンドには心が震えた。
ロートルで下馬評では劣勢ながらもがむしゃらに戦う主人公の姿に、不況で苦しむ庶民は自らの姿を重ねて応援し、その勝利に勇気づけられている。前半に主人公の苦境を散々見せつけて、観客を大衆と同じ気持ちにさせるプロットは見事だ。他の人々と同様に貧困にあえいでいた主人公は、命の危険はあっても大金を稼げるチャンスがあるだけでも自分は恵まれていると自覚していたので、きっと庶民の代表としての意識はあったのだろう。
アメリカにも日本にも、そんな時代のヒーロー的存在になり、疲弊した人々を勇気づけ、活力を与えてきた人物はたくさんいる。今だとドジャースの大谷選手もそうかもしれない。ただ最近は、その熱狂ぶりの度が過ぎてしまっているようにも感じる。束の間の気晴らしならいいが、現実に戻れないくらいのドラッグ漬けみたいにならないよう気をつけたいものだ。
スタッフ/キャスト
監督/製作 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー/ペニー・マーシャル
出演 ラッセル・クロウ/レネー・ゼルウィガー/ポール・ジアマッティ/クレイグ・ビアーコ/ブルース・マッギル/パディ・コンシダイン/ロン・カナダ/ローズマリー・デウィット/ニコラス・キャンベル/ランス・ハワード
音楽 トーマス・ニューマン
登場する人物
ジム・ブラドック/マックス・ベア