★★★★☆
あらすじ
統一王者として絶頂を迎えていたボクサーは、乱闘騒ぎを起こして流れ弾で最愛の妻を死なせてしまう。
感想
無敗を誇る絶頂期のプロボクサーが主人公だ。ボクシング映画は成り上がりを描くものが多いので、これは珍しい。すでに美しい妻と娘がいて、大金に大豪邸も手に入れている。施設で育った男が成り上がりを果たしてしまった状態で、これ以上何を描くのだと思ってしまった。だが主人公はある事件で妻を失い、それをきっかけにしてすべてを失ってしまう。そこからのリスタートが描かれる。
妻を失ったのは、対戦を希望するボクサーの挑発に乗り、主人公が起こしてしまった乱闘騒ぎの中での発砲事件だった。互いに挑発し合い、やがては銃撃戦に発展するなんて、まるでラッパーの抗争みたいだなと思ってしまったが、この映画は元々はエミネム主演で企画されていたようで、あながち間違っていなかった。「8マイル」第2章みたいなイメージで構想していたらしい。
すべてを失ってから再起を図ることは、なまじすべてを手に入れた状態を知っているだけに、単純なゼロからのスタートよりもきつい筈だ。何をやるにしても今さらこんなことできるか、という思いが心をよぎる。だがそんな主人公を踏みとどまらせたのは、一人娘の存在だ。自分の不甲斐なさから施設で暮らしている娘と再び一緒に暮らすために頑張る。この人のために頑張ろうと思える誰かがいることは幸せなことだ。彼独りだったらそのまま沈んだままだったかもしれない。
クライマックスは落ちぶれた主人公に巡って来たチャンスの大試合だ。無防備に撃ち合うスタイルからしっかりと防御を固めるスタイルへと変身して試合に臨む。このスタイルの変更は、彼の人気に影響を与えてしまうのでは?と余計な心配をしてしまうが、これは彼の生き方が変化したことをも示しているのだろう。守るべき娘がいるが、頼れる妻はもういない。ノーガードで戦っている場合ではない。
ラストは、勝負には勝ったが試合には負けた、みたいな流れを濃厚に匂わせておいてからの、気持ちよい裏切りが待っていた。そもそも無敵の王者だったのだから違和感はない。映画中盤で、そういえば主人公ってタイトルとは違ってサウスポーじゃないな、と気づいて訝しんでいたのだが、その意味が最後の最後で分かるようにもなっていて、見事な展開だった。
真新しさのあるボクシング映画と言うわけではないが、ボクシング映画に期待するものはちゃんと揃っている映画だ。ジェイク・ジレンホールの熱演も素晴らしかった。
スタッフ/キャスト
監督/製作 アントワーン・フークア
出演 ジェイク・ギレンホール/フォレスト・ウィテカー/ナオミ・ハリス/カーティス・“50セント”・ジャクソン/ウーナ・ローレンス/レイチェル・マクアダムス
音楽 ジェームズ・ホーナー