★★★★☆
あらすじ
ある日アメリカの片田舎の町に大量のゾンビが出現し、三人の警官たちはパトロールに出る。
感想
ゾンビを題材にしたコメディ映画だ。ただしオフビートの笑いが中心なので、単純明快なコメディを期待していると裏切られてしまうかもしれない。もちろん、通常のゾンビ映画のようなものを求めている人も同様だ。ワーキャー騒ぐことなく、ローテンションで物語は進行する。
静かで奇妙な雰囲気が漂う中、当然のようにゾンビに詳しい人が何人かいたり、Wi-Fiを探し求めるゾンビの群れがいたりと、じわじわ来る笑いがあちこちに散りばめられていて、めちゃくちゃ面白かった。ずっとケタケタと笑いながら見ている時間帯もあるくらいだった。
特に一番最初に登場するゾンビをイギー・ポップが演じているのが好きだった。彼がゾンビをやっているだけでなんか笑えてくる。あまり関係ないが、意外と彼はそんなに身長は高くないのだなという発見もあった。迫力があるのでなんとなく大男のようなイメージを持っていたが、実際は171cmしかないようだ。
大体楽しく見ることができていたのだが、クライマックスの手前くらいでかなり停滞する時間帯があった。ゾンビに囲まれた車の中で、ビル・マーレイとアダム・ドライバーの二人が映画の脚本について語り合うメタ的展開は、少し萎えてしまった。
ただこの映画は単なるゾンビ・コメディ映画ではなく、もっと深い意味が込められているようにみえる。本能に支配されて何も考えないゾンビと、物質主義に踊らされて何も考えなくなってしまっている人間はよく似ている。そこに大差がないことを皮肉を込めて描いている。
子供はおもちゃやお菓子に、都会の若者は刺激的でキラキラした文化に、田舎の男は性能のよい工具に心を奪われ、それだけを追い求める姿はまるでゾンビのようだ。だから誰もゾンビの出現に驚かないし、あっさりとゾンビになってしまう。
ゾンビのなり方も、最初は抵抗する者、誰かの助言に従って巻き込まれてしまう者、自ら飛び込んでいく者とそれぞれだったが、これもまた人々が物質主義に取り込まれていく様子のメタファーのようであった。
逆にゾンビにならなかった人たちもいる。俗世間から離れて世捨て人のように生きていた者や、社会から隔離されていた子供たち、間違いだらけだったが日本の武道で精神を鍛錬し流されない自己を確立していた者などで、ゾンビになった者たちとの違いを考えるといろいろ示唆的だ。
そんな風刺が込められていたのだと考えると、途中で少し停滞感があったのも仕方がなかったのかもしれないと思えてくる。しばし、それらについて考える時間を与えられたような気もした。それに、萎えてしまったあのメタ的展開も、どんな話をしても「それ知ってた」と訳知り顔で返す奴がいるよね、あれは興醒めするよね、という皮肉だったのかもしれない。世の中はゾンビ的人間で溢れており、いつの間にか自分がゾンビになってしまっていたとしても不思議はない。
映画を見ながら、これはジャームッシュ監督がなぜゾンビ・ブームが起きているのかを考察し、それをゾンビ映画で示そうとしているのかもしれないなと思えてきた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ジム・ジャームッシュ
出演 ビル・マーレイ/アダム・ドライバー/ティルダ・スウィントン/クロエ・セヴィニー/スティーヴ・ブシェミ/ダニー・グローヴァー/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ /ロージー・ペレス/イギー・ポップ/RZA/キャロル・ケイン/セレーナ・ゴメス/トム・ウェイツ/オースティン・バトラー/エスター・バリント
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