★★★★☆
あらすじ
娘と乗り込んだ列車でゾンビの集団に襲われ、他の乗客と共に協力し逃れようとする男。
感想
列車内という密室におけるゾンビ映画だ。外の世界で何が起きているのか良く分からない不安を煽りつつ、おそらくそれと関連しているのだろう列車内での出来事に集中することができる上手い設定だ。そしてときどき列車の外に出て、密室のデメリットである閉塞感を軽減しつつ、緊張感だけを高めていく。息つく暇もない映画で面白かった。
そして、映画内で「ゾンビ」という言葉が出てこないのもいい。「ゾンビ」という言葉が出てきただけで、頭の中で知識として持っているゾンビなるものをイメージし、おおよそ分かったような気になってしまうが、この形だと、これっていわゆる「ゾンビ」だよね、とひとつひとつ確認作業することになる。注意深くなって、それだけで深みがあるように感じる。
最初は状況が良く分からなくて逃げ惑うだけだった主人公たちが、離れ離れになった娘や妻を救出するために敵陣に乗り込んでいく展開に変わり、段々面白くなってきた。そして、ここでのマ・ドンソク演じる小太りのおじさんの言動がカッコいい。恐れや不安を見せずに躊躇なく敵に向かい、蹴散らしていく。その姿は男らしいが、よく考えてみると彼がこんなに強い理由はよく分からない。でも体格や雰囲気からそれなりの説得力を感じてしまうのは不思議だ。それとともにインテリな主人公がそれなりに戦えるのも不思議に感じるのだが、この手の人はジムに通ってがちだし、韓国は兵役があるし、その辺りが理由だろうか。
最終的には、一番怖いのはゾンビではなくて人間、とでも言うようなヒューマンドラマ的側面が強くなってくる。人間の醜悪さを凝縮したような悪役のおじさんが、本当に腹立たしくていい仕事をしている。そしてちゃんと最後まで生き残るのもリアルだ。現実世界でもこういうエゴ丸出しの人間の方が、良いポジションにいたりする。
しかし最近のゾンビ映画の流行は、この映画のように、人々が一番怖いのは人間だと感じる事が多くなってきたからなのかもしれない。姿かたちは同じ人間なのに、同じ人間だとは思えないような言動をする人々が、想像していたよりも多く存在する事をSNSなどが可視化してしまった。それに対する潜在的な恐怖心が、大量に押し寄せてくるゾンビに対する恐怖心と重なって本能に訴えかけるのだろう。
ゾンビと戦っていた主人公たちが、次々とゾンビ化していってしまう容赦のない展開は無慈悲だが、それがリアルで良かった。そして、醜く争う人々を見て生きる気力を失ってしまったおばあさんや、それに嫌気がさしてしまったその妹の姿にも人間味を感じた。ただこの二人の年老いた姉妹の容姿が、どことなく若々しくコントぽかったのが気になってしまったが。
それから、ブツブツつぶやく陰気な男の存在にはあまり意義を感じず、何のために出てきたのだか良く分からなかった。彼は韓国社会の落伍者というような位置づけだったのだろうか。そんな風に社会に見なされている彼でも、人間として尊厳のある行動を取るのだ、という事か。
最後はわずかに希望の光が灯るエンディングだったが、個人的には射殺で終わるバッドエンディングでも非情さが強調されて良かったようにも感じた。そうしてしまうと、これまでの皆の奮闘はなんだったのだ、となってしまうが、でもそんな事は世の中にたくさんある。
スタッフ/キャスト
監督 ヨン・サンホ
出演 コン・ユ/キム・スアン/チョン・ユミ/マ・ドンソク/チェ・ウシク/アン・ソヒ/キム・ウィソン/パク・ミョンシン/シム・ウンギョン/ハン・ソンス
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