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「明智小五郎事件簿1 「D坂の殺人事件」「幽霊」「黒手組」「心理試験」「屋根裏の散歩者」」 2016

明智小五郎事件簿1 「D坂の殺人事件」「幽霊」「黒手組」「心理試験」「屋根裏の散歩者」 (集英社文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 古書店で起きた殺人事件の謎を解く「D坂の殺人事件」他、全5編。江戸川乱歩の明智小五郎もの作品を発表順ではなく、事件の発生順に並べた全集の第一巻。

 

感想

 明智小五郎が初めて登場する「D坂の殺人事件」では、彼が最初犯人として疑われているのが面白かった。名探偵ものでは探偵自身は犯人じゃないという暗黙の了解があると思うが、これは最初の物語だからこそ出来たストーリーだと言える。まだ明智小五郎が名探偵であるという暗黙の了解すらなかった。

 

 この他ではやはり「屋根裏の散歩者」の異様さが強く印象に残る。殺人事件の前にまず、屋根裏を徘徊し他人の部屋をのぞいて回っていること自体が異常すぎる。さらにその前の、町で知らない人を尾行したり、女装して出歩いている時点で相当ヤバいのだが。

 

(前略)人間というものはなんと退屈きわまる生きものなのでしょう。どこへ行ってみても、同じような思想を、同じような表情で、同じような言葉で、繰り返し繰り返し発表し合っているにすぎないのです。

p168

 

 この主人公やそれを書いている著者は、多くの人がなんとも思わず暮らしている毎日に潜むパターンに気付いてしまう人なのだろう。日々の生活で起きる様々な出来事も、以前起きたあれと同じパターンだなとすぐに勘付いてしまって、つまらない気分になる。だからそのパターンから逃れようとし、エスカレートした結果がこのような異常行動になってしまうのだろう。

 

 この異常さには不思議な魅力があり、それが江戸川乱歩人気の理由のひとつになっている。異常な人に自分がなりたいとも関わり合いたいとも思わないが、こちらに害が及ばない少し離れたところで見ていたいという願望はある。なんせイッちゃっている人は面白い。

 

 

 この「屋根裏の散歩者」では、最終的には明智小五郎までもが異常な行動を見せているのが可笑しかった。それも犯罪だろう、とツッコみたくなる。

 

 昔の小説なので程よい区切りが設けられておらず、中断のしどころが難しい部分はあったが、ちょうど良いボリューム感の中短編が並んでおり、気軽に楽しめた。普段はあまり読まないのだが、推理小説って普通に面白いなと再確認できる手頃な本だった。

 

著者

江戸川乱歩

 

D坂の殺人事件 - Wikipedia

心理試験 - Wikipedia

屋根裏の散歩者 - Wikipedia

 

 

登場する作品

途上

モルグ街の殺人事件

「スペックルド・バンド(シャーロック・ホームズの冒険(2) まだらの紐)」

「黄色の部屋(黄色い部屋の秘密〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫))」

「心理学と犯罪(Psychology and crime (English Edition))」

「レジデント・ペーシェント(入院患者)」

 

 

関連する作品

D坂の殺人事件

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