★★★☆☆
あらすじ
祖国中国に住む祖母が余命わずかと判明して親族一同が集まる中、ニューヨークから駆け付けた女性。
感想
余命わずかな祖母に会うために、ニューヨークから中国に帰って来た女性が主人公だ。本人に病名や余命は告げないと決め、いとこの結婚式という名目で集まった親族たちに対して、本当のことを告げるべきではないかと思い悩んでいる。幼い頃にアメリカに渡って西欧的な思考を身に着けている彼女は、彼らの中国的な考え方がうまく飲み込めない。
しかしこの一族は、祖母の息子たちの一人はアメリカに、もう一人は日本に移住していて国際的だ。リスクマネジメント的なところもあるのだろうが、少しでも良い暮らしを、と貪欲にしかも軽々と世界に飛び出していく中国人の姿勢には感心してしまう。親族の誰か一人ぐらいは海外移住しているのが普通な環境なのかもしれない。
何十年ぶりかに一堂に会した親族たちが、祖母に嘘がバレないよう取り繕い、時に和気あいあいと、時にギクシャクしながら過ごす様子がコミカルさを交えつつ描かれていく。あまりしっかりと見せてはくれないが、美味しそうな食事シーンが多いのもいい。
そんな中で次第に浮かび上がってくるのは、中国から遠く離れたニューヨークで、家族以外に身寄りもなく暮らす主人公の寄る辺なさだ。中国に戻って昔の思い出に浸り、大勢の親族に囲まれることで自身のルーツやアイデンティティを噛みしめている。祖母はそれを象徴的に示す存在だと言えるかもしれない。
これは彼女に限らず、世界中にいる多くの移民たちが感じている心細さだろう。様々な事情から異国で暮らす彼らは、そこでの暮らしに馴染んでいるつもりでも疎外感を感じてしまうことはあるはずだ。そして故郷に戻ってみれば、自分が暮らしていた頃の面影はもう無く、自分を知る人もほとんどいなくなり、すっかり変わってしまっている。この広い世界に自分の心のよりどころとなる場所がどこにもないような気がして、心許なさを味わうことになる。
中国人ばかりの親族の中で、主人公のいとこの結婚相手として加わっている一人の日本人女性は、そんな移民のメタファーの役割を果たしている。何が起きているのか詳しいことはよく分からないが、それでもとにかく感じよく振る舞い、目立たぬように気を遣って過ごしている。だがそんな態度や、言葉が分からないことから頭が悪そうなどと陰口を叩かれることもある。それでも簡単に帰るわけにはいかず、必死に居場所を見つけなければならない。
主人公を演じるオークワフィナが良いキャラクターだし、クスッと笑えるコミカルなシーンも多く、アジア映画ぽい良い雰囲気も漂っていてクォリティの高さを感じる映画だ。ただ、そもそもの話のきっかけである祖母に病名を告げるべきか問題が、文化の違いで片づけてしまってそれ以上は踏み込もうとしなかったところに消化不良感が残った。
移民の心細さを描き出した物語だが、逆に考えれば自分のルーツがちゃんと分っているということは、生きていく上で心強さになっていることがよく分かる映画だった。これこそ無くならないと気づかないことなのかもしれない。とはいえ、自分のルーツだけがアイデンティティになっているようでは問題がありそうだが。
自分のルーツを再確認した母国から戻り、姿勢の悪かった彼女が背筋を伸ばし、ニューヨークの街を歩きはじめるラストシーンが心に残る。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ルル・ワン
製作 アニタ・ゴウ/ダニエル・テイト・メリア/アンドリュー・ミアノ/ピーター・サラフ/マーク・タートルーブ/クリス・ワイツ/ジェーン・チェン
出演 オークワフィナ/ツィ・マー/ダイアナ・リン/チャオ・シューチェン/水原碧衣