★★★★☆
あらすじ
保険金殺人の疑いで逮捕され、メディアで騒がれる若い女とその国選弁護人となった女。
感想
金持ちの年寄りと結婚し、保険金殺人の疑いをかけられた主人公の、悪女ぶりがすごい。人と接する態度や裁判での傍若無人ぶりなど、全く自分を取り繕おうとせず、醜い自分をさらけ出している。好きになれる要素がゼロで、絶対に関わり合いになりたくないタイプ。嫌い。観る者にそんな感情を抱かせる演技をしている桃井かおりがすごい。
そんな世間から叩かれまくっている主人公の国選弁護人となった岩下志麻演じる女。損しかしなさそうな弁護を引き受けたわけだから、理想に燃える人権派の心温かい女性かとおもいきや、そうでもない。弁護士としての仕事をプロフェッショナルにするだけというクールな女。彼女を助けるというよりも好きなようにやらせ、時には突き放すようなことも言う。ありがちな弁護士と依頼人の関係でなく、二人の間に緊張感があって面白い。
そして、先入観を持ちまくりの警察や感情丸出しのマスコミなど、皆の人間味が溢れまくっている。さらに、容疑者が自宅に記者を招いて記者会見する光景や、関係者を追いかけまくる報道陣など、いかにも昭和の風景で、この頃の世相がよく映し出されていてグッとくる。女弁護士まで、証人の少年にグイグイと圧力をかけていて、おいおいそれって大丈夫なの?と心配になるほどだった。
しかし主人公は自分が死刑になるかどうかの瀬戸際なのだから、もう少しちゃんと自分の見た事や聞いた事を話して、冷静に無実を訴えかければいいのにと思ってしまった。少なくとも事故の時の状況は、彼女がどういう行動を取っていたかぐらいは、こちらも知りたかった。だが、こんな風に露悪的にしか振舞えない人というのはまれにいる。意図的なのか、無意識なのか良く分からないが。
桃井かおり、岩下志麻だけでなく、胡散臭い鹿賀丈史や情けない仲谷昇など他の出演陣も良い演技。柄本明演じる粘っこい新聞記者は、使命感に燃える男として描かれているのかと思ったら、最終的にはただの個人的感情をぶつけるだけの男だったというのは意外だった。マスコミ不信はいつの時代もあるということか。
裁判も一件落着し、これでエンディングかと思っていたら、その後に主人公と女弁護士のバッチバチのやり取りが待ち受けていた。見ているこちらが居た堪れない気持ちになるほどで、桃井かおりと岩下志麻の凄みが感じられる見ごたえのあるシーンだった。ヒリヒリするような感情が残り、余韻がすごい。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 野村芳太郎
原作 疑惑
出演 桃井かおり/岩下志麻/鹿賀丈史/仲谷昇/河原崎次郎/梅野泰靖/小林昭二/小林稔侍/松村達雄/森田健作/山田五十鈴/北林谷栄/三木のり平/名古屋章/真野響子
音楽 芥川也寸志/毛利蔵人