★★★☆☆
あらすじ
子供を失った事から夫婦仲に亀裂が生じ別居することになった夫は、風変わりな女性に出会う。原題は「The Accidental Tourist」。
感想
映画タイトルにもなっている「The Accidental Tourist」という本を書いている主人公。邦題の「偶然の旅行者」も間違ってはいないのだろうが、これだとたまたまどこかにやって来た旅行者、みたいな感じにも取れてしまうのでちょっとニュアンスが違う。「乗り気じゃない旅行者」と言った方が伝わるだろうか。
楽しむためではなく、仕事や所用のために本意ではないが旅行しなければいけない人たちのためのガイドブック。そこには、どうすれば旅先のハプニングを避け、いかに普段と同じように過ごせるかのヒントが書かれている。主人公も旅に出るよりも出来るだけ居心地の良い家に居たい人間なのだが、そんな本を書いているせいで、調査のために世界中を旅しなければいけないというのは皮肉が効いて面白い。
そして、主人公が人生に望むのも同じような事。何事も計画通りに進み、予想外の出来事に慌てることがないよう願っている。しかしそんな主人公に、子どもの死、それによる夫婦間に出来た溝、そして別居と想定外の出来事が立て続けに起きてしまう。そんな状況に困惑した彼が取った行動は、実家の兄弟たちの元に戻るという事で、さらに居心地の良かった過去の時代に戻ろうとしている。
そこに現れたジーナ・デイヴィス演じる不思議な女性。初対面から主人公に積極的にアプローチしたりして、接近の仕方が魅力的というよりはちょっと怖かった。エキセントリックな雰囲気を醸し出していたので、もしかしたら天使のような、実在しない存在の設定なのかと疑ってしまった。だがやがて二人がつき合うようになると、急に普通の女性になってしまって拍子抜けした。終盤になると再度おかしな人に戻ったが。
旅は、家に居るだけでは味わえない体験が出来ることが醍醐味だ。それを恐れて早く家に帰りたいと思っているようでは旅は楽しめない。人生も同じ。それに過去に戻りたいと願ったところでそれは出来ないのだから、不安を恐れず前に一歩踏み出すしかない。何が待ち受けているのかとワクワクしながら。ハプニングすらも楽しむつもりで。
そんな変わっていく主人公の心の動きが分かるようなエンディングの一連のシーンは見事。特に死んだ子供に対する気持ちに一区切りがつけられるような演出は良かった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ローレンス・カスダン
製作総指揮 フィリス・カーライル/ジョン・マルコヴィッチ
出演 ウィリアム・ハート/ジーナ・デイヴィス/キャスリーン・ターナー/ビル・プルマン/デヴィッド・オグデン・スティアーズ/エド・ベグリー・ジュニア
音楽 ジョン・ウィリアムズ
撮影 ジョン・ベイリー