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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「虐殺器官」 2007

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

★★★★☆

 

あらすじ

 世界中で頻発する虐殺行為の首謀者を暗殺するのが目的の米国部隊に所属する主人公らは、必ずどの現場にも姿を現すある男を殺せないでいた。

 

感想

 核爆弾が使用され、世界中で戦争やテロが頻発する近未来が舞台となっており、主人公は平和のために世界の要人を暗殺する部隊に所属している。当然、武器や乗り物などはハイテクなSF感あふれるものがたくさん登場するのだが、そのどれもがどんなものか簡単にイメージできるように描写されているのがすごい。決して雰囲気で誤魔化すことなく、しっかりと説明がなされている。

 

情報を発信するのは容易だが、注目を集めるのはより難しくなっている。世界は自分の欲する情報にしか興味がなく、それはつまり情報そのものは普通に資本主義の商品に過ぎないということだった。

p73

 

 さらには、個人情報がすべて収集される情報化社会だったり、それでも相変わらずロボットではなく人間が戦争の主役になっている理由なども語られて、リアリティが感じられる世界観だ。

 

 その中で描かれる兵士に施される様々な処置が面白い。PTSDとならないようにアフターケアが義務付けられていたり、現場で不意に良心に囚われてミスが起きないよう事前に感情の調整を行なったり、痛覚はあるが痛みは感じない状態に処置されたりもする。これで兵士は心置きなく戦いに集中できるというわけだ。何度か作戦が実行され、そのどれもがスリリングで面白かった。

 

 

 そんな主人公らの前に立ちはだかるのが、各地で虐殺行為を発生させる謎の男。主人公は、男の足取りを掴むためにその恋人に近づくのだが、彼女との出会いによって自分自身が抱える問題について深く考えるようになっていく。正直すべてが上手く理解できたわけではないが、この二人が交わす軽やかさがありながらも理知的な会話は深みがあって読みごたえがあった。

 

 的確に任務をこなしていく主人公だが、考えてみれば兵士に施される様々な処置は人間の心を停止させて、命令で動くだけのロボットにすることに他ならない。この場合、殺人の罪は誰が責任を負うべきなのか。命令を下した上司なのか、何も感じないまま命令を実行した本人なのか。最後は安易に謎の男との対決にせず、非情なクライマックスを用意していたのも良かった。アメリカはさんざん世界中に迷惑をかけてきたのだから、たまには逆にそれらをすべて引き受けさせるというのも悪くない考えだ。

 

著者

伊藤計劃

 

虐殺器官 - Wikipedia

 

 

登場する作品

音楽への憎しみ

キャリー(1976)(字幕版)

Voodoo Chile(ブードゥー・チャイル)」

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《月光》~第1楽章(ベートーヴェン)

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プライベート・ライアン (字幕版)

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パルプ・フィクション (字幕版)

城 (新潮文庫)

アメリカ (角川文庫)

ロリータ (新潮文庫)

太陽の帝国 (創元SF文庫)

エクソシスト(字幕版)

初体験 リッジモント・ハイ (字幕版)

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マッドマックス(字幕版)

 

 

関連する作品

アニメ映画化作品

虐殺器官 [DVD]

 

 

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