★★★★☆
あらすじ
地元で親の仕事を継いで炭焼き職人をする男は、ある日中学時代の同級生が戻ってきた事を知る。
感想
ずっと地元にいた主人公と世界を見てきた男が再会して始まる物語。世界の荒波にもまれてきた男にとっては、主人公が広い世界を知らず、ぬるい環境でのんきに生きているように見えてしまうのは分からなくもない。だが主人公にとってはこの地元こそが彼の生きる世界だ。どこの世界にでもあるような様々な問題を抱えながら、彼なりに必死に生きている。
映画は主人公とこの男を中心に、家族や友人など周囲の人々それぞれが、自分たちの世界でもがく姿が描かれていく。炭焼き職人にしてはお肌がツルツルすぎる気がしないでもない稲垣吾郎演じる主人公が、中学時代の同級生である長谷川博己演じる元自衛官と渋川清彦演じる中古自動車屋の中年三人組で、子供のように戯れる様子は微笑ましい。小さな喧嘩をしてもそのうちすぐにまた仲直りをする様子は、消えることがない固い絆が彼らの中にあることを教えてくれる。
シリアスな中にもくすっと笑えるシーンがあり、中でも元自衛官の男がいじめに悩む主人公の中学生の息子を連れだして、フランクに何度もビールを勧めるシーンは可笑しかった。主人公の奥さんがメッセージを忍ばせた手作り弁当のくだりも良かったが、文字が白飯に桜でんぶで書かれているので判読しづらく、分かりづらかった。そこは海苔で良かったのに、と思ってしまった。せっかくのシーンがボヤけてしまって勿体ない。
世界中のあらゆる場所にはそこに住む人々それぞれの世界があり、皆そこで笑ったり泣いたりしながら生き、そして死んでいく。自分の視界に入る場所だけが世界なのではなく、そうではない場所にも世界はある。でも、自分にとっては10年前の旅行で訪れた過去の場所だと思っているような場所でも、その時からずっと変わらず、今もその世界で生きている人がいるというのはなんだか不思議な気がしてしまう。当たり前と言えば当たり前なのだが。少し世の中を見る目が変わりそうな映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 阪本順治
出演 稲垣吾郎/長谷川博己/池脇千鶴/渋川清彦/竹内都子/杉田雷麟/菅原あき/牧口元美/信太昌之/堀部圭亮/小野武彦/石橋蓮司
音楽 安川午朗