★★★★☆
あらすじ
離婚して地元の函館に戻り、職業訓練校に通う男は、一人の若い女と出会う。
佐藤泰志の小説を原作とする「函館3部作」の第三作目。112分。
感想
片田舎の職業訓練校に通う主人公と同級生たちの日々が描かれる。最初は舞台が職業訓練校ということが分からず、刑務所なのか?でもタバコを吸っているから違うか、とか色々考えてしまった。でも皆がどこかダラけてやる気がない様子は刑務所とよく似ている。手に職をつけようとする前向きな意志よりも、在校中は失業保険が貰えるからという消極的な理由で皆なんとなく通っている。
ただこの職業訓練校に通う主人公らのグループの空気感はなんか良い。女性こそいないが、若者から年寄りまで色んなバックグラウンドを持った普段なら決して交わることはないだろうメンバーが、緩くつながりながら同じ時間を過ごしている。別に互いに親友になろうとしているわけではないので、ただ波風を立てずに良好な関係さえ維持できればいいという距離感だ。だからお互いに踏み込んだことは聞かないし、相手の感情を揺さぶるようなことを言うのは控えている。
本来、世の中というのはそういうものだが、会社だと出世競争、近所づきあいだと生活レベルの違いなど、余計な要素が混じってしまって変なマウントの取り合いが起きたりしがちだ。こんな風に緩やかに団結して、なんとなくいつも一緒にいるような関係を大人になってから持つというのはなかなか無い事だろう。たまに相手につい強い言葉を使ってしまってピリつくこともあるが、なんだかんだで結局は、なんとなくまた一緒にいるというのも良い。
そんな学校に通う主人公は、離婚して子供と離れ離れになってしまった過去を引きずったままでいる。自身の過ちを頭では理解しているのだが、どこかでそれを認めたくない気持ちが支配している。
そんな彼が、蒼井優演じる若い女と出会う事で変わっていく。この女がなかなか異常で、彼女に魅力を感じる主人公の気持ちが正直よく分からない。だが共に問題を抱える二人が、互いを誰かの身代わりに見立てて、心に溜まったモヤモヤをぶつけるのにちょうど良かったということなのだろう。そんな風に利用し合っていた二人は、その関係を通して自身を見つめ直し、相手の本当の姿に向き合うようになっていく。
少しずつ変わっていく主人公と同様に、変わらない日々を送っているように見えた他の同級生たちもそれぞれの人生を必死に生きている。覇気のない風を装いつつも、それぞれが胸に秘めたもの、心に芽生えたものがあることを時おり垣間見せる。
そして、適度な距離感を保ってきた皆との間にも、絆のようなものがいつの間にか生まれている。あんなにだらだらと授業の一環としてソフトボールをやっていたのに、校内大会がある日には家族や友人を呼んだりして皆がウキウキしていたのも微笑ましかった。
終盤に突然、野球(ソフトボール)映画感が出てきて、どんなエンディングにするのかと思っていたのだが、ど真ん中の王道パターンで締めくくられてちょっと意外だった。でもひねくれてばかりいないで、真正面からぶつかって壁(フェンス)を乗り越えていけ、ということなのだろう。爽やかな余韻が広がり、自分もまた明日から頑張ろうという気持ちにさせてくれる。
スタッフ/キャスト
監督
脚本 高田亮
原作 「オーバー・フェンス」
*所収
出演 オダギリジョー
松田翔太/満島真之介/北村有起哉/松澤匠/鈴木常吉/優香/安藤玉恵/中野遥斗/吉岡睦雄/林田隆志/中野英樹/(声)塚本晋也
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