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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「張込み」 1958

松本清張 張込み

★★★★☆

 

あらすじ

  逃亡犯が昔の女と接触を図るのではとの予測から、東京の二人組の刑事が佐賀にある女性宅を張り込むためにやって来る。

 

感想

 刑事が鹿児島行きの夜行列車に乗り込むシーンから物語は始まる。最初はその目的が明かされていないので、どこに行くのか、何のために乗っているかすら分からない。延々と蒸気機関車内の様子が描かれる。鹿児島行きだから鹿児島まで行くのかと思っていたが、目的地は佐賀。宿屋を決めて落ち着いたあたりで、ようやく彼らの目的が分かってくる。

 

 目的は東京で強盗事件を起こし逃亡している男の昔の女を見張ること。宿屋の2階で張り込みを開始するのだが、あまりにも彼女の家の真正面すぎて、少しヒッチコックの「裏窓」を思い出した。

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 ただこちらは全然何も起きない。今は20以上も年上の男の後妻として3人の継子と共に暮らす女の生気のない生活が淡々と描かれる。事件としては面白みはないが、部屋に籠り汗だくで忍耐強く任務をこなす刑事たちの仕事ぶりや、単調で変わり映えのしない毎日を送る主婦の日常が、リアリティを持って迫ってくる。

 

 このまま、ある女の人生を垣間見ただけで映画は終わっていくのかと思っていたら、ようやく終盤に事件は動き出す。ただここでも事件というよりも、女の挙動にフォーカスが当てられている。暗い顔をしていた女が見せる生き生きとした表情に、ほぼストーカーと化した刑事が戸惑っている。人には色々な顔があり、自分が見ているのはその人のほんの一面でしかないという事だろう。人間の複雑さがよく表れている。

 

 

 さらにこの事件の行く末と共に、若い刑事の身の上話も差し挟まれ、それぞれの人生に思いを巡らすような展開の映画。この話自体も面白かったが、映し出される佐賀の街中の様子などの当時の日本の風景がとても興味深い。女が買い物に行くのが商店街でもなくて、露天のお店が並ぶ場所で、まるで東南アジアのどこかのような光景。ほぼロケ撮影だという事なので、当時の映像がこんなに見られるなんて貴重な体験だ。それから、田園地帯の中の一本道を走る車の映像も圧巻だった。

 

 さらには音楽も良くて、見ていると贅沢な気分に浸れる。血沸き肉躍るというよりも唸ってしまうような映画。

 

スタッフ/キャスト

監督 野村芳太郎

 

脚本 橋本忍

 

出演 大木実/宮口精二/高峰秀子/田村高広/菅井きん藤原釜足/浦辺粂子/北林谷栄/芦田伸介


音楽 黛敏郎

 

松本清張 張込み

松本清張 張込み

  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: Prime Video
 

張込み - Wikipedia

 

 

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