★★★☆☆
あらすじ
自分以外の家族が全員殺されてしまうも犯人が自殺してしまった少女は、偶然テレビで見かけた犯人を必ず殺すと宣言していたある事件被害者の男性に自身の思いを託すようになる。278分。
感想
序盤は事件被害者たちの様子が描かれていく。事件直後は理不尽な仕打ちにやり場のない怒りを覚えるが、いつまでも打ちひしがれているわけにはいかず、日々の生活をこなしているうちに次第に落ち着きを取り戻していく。それでも決して完全に忘れたわけではなく心のどこかに常にそれはあり、何も知らない他人の他愛のない一言で、一瞬にして蘇り深く傷つくこともある。
しかし事件直後に加害者への復讐を宣言していた長谷川朝晴演じる事件被害者の男は、ちょっとおかしな若い女に目をつけられてしまったり、面識のなかった主人公の少女には復讐の実行をしないのかと催促されてしまったりと、女に困らされてばかりだ。
中盤になると今度は加害者側が描かれていくのだが、意外とこちらの方が見ているのが辛くて精神的に堪えた。被害者側の場合だったら復讐に燃えているにしろ、忘れようとしているにしろ、そうだろうそうだろうと目頭を熱くして見ていればいいのだが、加害者側の場合はそうはいかない。本当は許すべきなのだろうが、この加害者が普通に生活をしている様子をずっと見ていると、この人物のおかげで苦しみながら生きている人がいるのになと、段々と複雑な思いが押し寄せてきて動揺してしまう。本当に許してしまっていいのかと。
映画は、廃墟となった炭鉱の町や船で往来する美しい島がありながらも、東京らしき大都会もあるような場所で、ここはいったいどこなのだ?と思ってしまうような不思議な舞台設定となっている。どこか寓話的だ。炭鉱の町は生まれた場所、原点を表し、島はこの世とあの世の中間地点を表しているのだろうか。登場人物たちはどちらかの場所で死に、死ななかった者は町に戻るか、あるいは死者に思いを残して島にとどまる。
終盤、被害者と加害者がついに出会い、物語は大きく動く。復讐を誓った男や殺し屋の男のラストシーンの姿を見ていたら、こんな風に家族を眺めることがあるのなら、きっと自分の復讐をしてくれなどとは思わないだろうな、というのはひしひしと感じた。もっと自分の幸せのために生きてくれと願うはずだ。彼らがもしそう願うのだとしたら、きっと被害者たちも同じような気持ちで彼らをずっと眺めていたに違いない。
4時間以上もある大作だが、豪華な役者陣によって演じられる主要人物以外のキャラクター達にもドラマがある群像劇となっており、長い年月が描かれることもあって見ごたえがあった。まったくダレなかったわけではないが、長時間はそんなに苦にはならなかった。唯一気になったのは、警察が徹底的に家宅捜査した後の部屋でベタな場所から拳銃が出てきたシーンで、そんなのあり得ない、と思ってしまったのだが、そこはファンタジーという事なのかもしれない。
エンドロールで流れる監督作詞でTenköが歌う主題歌「生まれる前の物語」が意味深だったので、歌詞を読めば映画の内容がすべてわかってしまうんじゃないかと検索して読んでみたが、案外そうでもなかった。
スタッフ/キャスト
監督 瀬々敬久
出演 寉岡萌希/長谷川朝晴/忍成修吾/山崎ハコ/村上淳/菜葉菜/江口のりこ/吹越満/片岡礼子/嶋田久作/菅田俊/光石研/津田寛治/根岸季衣/渡辺真起子/長澤奈央/諏訪太朗/鈴木卓爾/古舘寛治/不二子/三浦誠己/川瀬陽太
音楽 安川午朗