★★★★☆
あらすじ
妻を通り魔に殺された男や皇室に憧れていた主婦、友人に想いを寄せる弁護士らの日常。キネマ旬報ベスト・ワン作品。140分。
感想
最初は良く分からないが、次第に登場人物たちの 状況が見えてくる群像劇。なかでもやはり、妻を通り魔に殺されるも犯人は精神鑑定の結果罪に問われず、民事裁判に協力してくれる弁護士もおらず、世の不条理を嘆き、世間に怒りを感じている男には同情を禁じ得ない。想像しただけでしんどい出来事だが、世間はいつまでも同情してくれるわけでもなく、下手したら疎ましい存在として避けようとすらする。
そんな彼を温かく見守る上司が良い。大げさに励ますでもなく、偉そうな言葉を言うでもなく、ただじっと男のそばで話を聞き、頷いている。まさに見守っているという言葉がぴったりの姿だ。ほとんどの人は、苦しんでいる人を自分は無視しなかった、というアリバイ作りのために声をかけるだけ。こうやって他人に親身になれることなんてなかなかできない。自身にも色々あるだろう上司のそんな姿にグッと来た。
その他、取引先の男と関係を持つ女、思いを寄せていた同級生に急に距離を取られてしまった男など、それまでの日常に変化が訪れた人物らが描かれる。役者陣は皆、非常にナチュラルな演技。そこに日常に起きるふとした笑いも差し挟まれつつ、淡々と物語が進んでいく。ただ女性陣の演技は自然ではあるのだが、女芸人がよくやる一般女性のモノマネの一人コントを見ているような気分になる時もあった。
それから劇中に出てくる人たちが善人ばかりで、悪人があまり出てこないのが気になった。詐欺師とか殺人者のような悪人ではなく、陰口を言うようなちっちゃな悪意を見せる人たち。どんな組織にもいるものだが。
とはいえ、2時間を超える上映時間を感じさせない、見入ってしまう群像劇だった。結局、人間は前を向いて生きていくしかないのだなと改めて思わさせられた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原作/編集 橋口亮輔
出演 篠原篤/成嶋瞳子/池田良/安藤玉恵/黒田大輔/山中崇/内田慈/山中聡/リリー・フランキー/木野花/光石研