★★★★☆
内容
大学教授はどのように小説を読み解いているのか。教授自らが解説する。
感想
小説の中に出てくる様々な描写から、いろいろと読み取れることがある。食事のシーンは親密さを表し、雨は洗礼を示す。それをそのままの意味で使っている事もあるし、敢えて逆の意味に使う事で意外性を出そうとすることもある。そんな風な読み解き方がたくさん紹介され、とても興味深い。若干、パターンが多すぎて途中でダレてしまう部分はあるが。
様々な小説の例を挙げながら展開される解説を読んでいたら、これまで読んでもいまいちピンと来なかった名作とされる作品たちは、こういう視点が欠けていたからだったのだなと痛感した。今回学んだことを意識して読み直したら、きっといろいろな事が見えてくるはずだ。すでに読んだ「ダブリナーズ」や「競売ナンバー49の叫び」も例として挙げられていて、そういう事だったのかと頷かさせられた。
ただ小説を理解するには、やはり文化的背景を理解していることが重要だ。聖書やギリシャ神話の話、色や動物などが意味するものなどは、欧米では自然と感じ取れるものかもしれないが、日本人にはピンと来なかったり、意味するものが違ったりする。そういった部分が、欧米文学を読んでもどことなく距離を感じるものにさせているのだろう。
正直、登場人物がパンやワインを分け与えたり、大工だったりしただけで「もしかしてキリスト?」となる自信はない。いつも十字架背負ったらさすがに分かるぐらいか。同じような事が外国人にも日本の小説に対して起こっているのだろう。
最後の章には、実際の短編を読んでみる実践の場があり、いつものただストーリーを追うだけではなく、この本で身につけた着眼点で読んでみると、色々なことに気付いてすごく楽しかった。犬が一匹横切るのにも意味はある。
なんだか悟りを開いたように気分になって、これでどんな難解な本でも大丈夫という妙な自信が湧いてきた。今後の読書がもっと楽しくなりそうで、読んでよかったと心から思える本。出来る事ならもっと早く出会いたかった。
作家が死ぬまで待つ必要はない。生きているうちに本を買ってあげれば、印税は作家のポケットに入る。
p312
最後におすすめの本が挙げられ、読書する上でのいくつかのアドバイスがされるのだが、これは確かにその通り。ついつい評価の定まった間違いのない古典を手に取ってしまいがちだが、作家が生きた時代の空気を感じながら読書できるのは、同時代人にしか与えられない特権なので、進んで享受するべだろう。それに著名な作家が亡くなるとちょっとしたブームが起きたりするが、同時代を生きていたのだから、生きている間にその作家の本を読んで、賛辞を贈りたいよなといつも思う。
著者
トーマス・C. フォスター
登場する作品
「This life is Weary(この世はつらい)」
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