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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「北斎漫画」 1981

北斎漫画

★★★★☆

 

あらすじ

 戯作者になることを夢見つつ下駄屋を営む後の滝沢馬琴と、その2階に下宿する絵師としてまだくすぶっている葛飾北斎。

 

感想

 葛飾北斎と滝沢馬琴、そしてその周辺の人物たちの物語だ。まだくすぶっている北斎がミステリアスな女と出会うところから物語は始まる。この女と出会ったことから北斎の能力が開花したということなのだろう。だがあまりこの辺りの描写はピンと来ない。女に入れあげている感じも売れた感じもあまり伝わってこなかった。ここは彼の強烈な個性を示すパートだったのかもしれない。

 

 そして中盤、話は一気に北斎90歳の時点に飛ぶ。このダイナミックな展開はすごい。当然、皆が老けたメイクを施しているので老人コントのようでもあり、微妙にファニーな雰囲気が漂っている。普通の伝記映画であれば終盤にチラッと見せるだけのシチュエーションだろう。これで残り一時間弱ももつのかなと勝手に心配してしまった。だがここからが面白かった。

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 90歳になった北斎は、死期が迫っていることを感じながらも、まだ絵を描きたい、もっと上手くなりたい、生きたいと切望している。まだ納得していない、死ぬわけにはいかないとジリジリする彼の焦りが伝わってくる。死を静かに待つのではなく、最後までギラギラと人間臭く生きようとするその姿には圧倒される。

 

 そしてこれは北斎と馬琴の関係を描きながらも、メインは北斎と娘の親子の物語だったのだなと分かってくる。どんな時も常にそばに娘がいて支えてくれたからこそ、北斎は好き勝手に生きられた。混濁する中で娘の名を呼ぶ北斎の姿が印象的だった。

 

 

 この北斎の娘、葛飾応為を演じる田中裕子が非常に良い。時々、グッとくる表情をして惹きつけられる。若い頃のあっけらからんとした姿は魅力的だし、70歳の老女役でも、いつの間にかちゃんとそう見えるようになってくるから不思議だ。

 

 ただ70歳の老婆としてのベッドシーンは、顔は老けメイクをしているのに体は明らかにピチピチで違和感があった。だが、だからといって老婆の裸を見たいかと言われたらそうではないので、これで良かったのだろう。ちぐはぐで異様な映像は、北斎の絵の世界観ぽくもある。

 

 それから二役を演じた樋口可南子も本当に同一人物?と思ってしまうような上手い演じ分けを見せている。特に若い女役はいかにも普通の可憐な娘といった感じでとても自然だった。彼女は固い演技のイメージがあったので、こういうのも出来るのかと驚いた。

 

 有名な春画「蛸と海女」をモチーフにしたシーンも心に残る。蛸の足が蠢く特撮はチープなのだが、形だけのおざなりでない踏み込んだ演出にドキドキとさせられてしまった。

 

 男たちの情熱と女たちの艶っぽさをうまくミックスした映画だ。「生きる」とはこういうことなのだ、というメッセージが感じられる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 新藤兼人

 

出演 緒形拳

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田中裕子/樋口可南子/フランキー堺/乙羽信子/宍戸錠/大村崑/愛川欽也/殿山泰司/初井言榮/大塚国夫/梅津栄

 

北斎漫画

北斎漫画

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北斎漫画 (映画) - Wikipedia

北斎漫画 | 映画 | 無料動画GYAO!

 

 

登場する人物

葛飾北斎/曲亭馬琴/葛飾応為/十返舎一九/式亭三馬/喜多川歌麿/蔦屋重三郎

 

 

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