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「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」 2024

青春ジャック 止められるか、俺たちを2

★★★★☆

 

あらすじ

 東京の文芸坐を辞め、名古屋でビデオカメラ販売の営業をしていた男は、映画監督の若松孝二に、ミニシアターを作るので支配人をやらないかと誘われる。

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 前作「止められるか、俺たちを」の10年後を描いた第2作目。井浦新、東出昌大ら出演、監督は若松プロ出身の井上淳一。119分。

 

感想

 若松監督と、彼が名古屋に開館したミニシアター「シネマスコーレ」に集う人々を描く群像劇だ。登場人物のひとり、劇場に足繁く通い、ついには若松監督に弟子入りしてしまう浪人生は、この映画の監督自身(井上淳一)のことらしい。

 

 まず何といっても、井浦新演じる若松監督のキャラが魅力的だ。どこか飄々とした雰囲気で、来る者を拒まない包容力がある。強面の見た目に似合わない朴訥とした喋りも愛嬌があり、その調子で「困ったなー」とぼやかれると、なんだか助けたくなるような放っておけなさがある。多くの人が彼を慕うのもよく分かるような気がする。

 

 

 また、大林宣彦監督のことをボロクソに言ったり、いいアイデアが浮かばないのならパクればいいとあっけらからんと言ったりするのも可笑しかった。ひどいことを言っているのだが、何故か憎めない。

 

 やがて若松監督に弟子入りした一人の若者を中心に物語が進行するようになる。ここでの若松監督の人間臭さ溢れる言動が面白い。慣れない助監督をする彼に怒鳴り散らし、飛び蹴りを食らわしたりする。

 

 特に若者に初監督を任せてからは、心配で色々口出しをしているうちに、気付けば自分がほぼ監督をやってしまっていたり、演出が違うと怒鳴っていたのに、それが役者のアイデアだと分かった途端に急に態度を変えて絶賛したりと、もうめちゃくちゃで笑ってしまった。

 

 自分は目立たないようにしないといけないと分かっているのだが、夢中になると我を忘れてしまうのだろう。また、映画に出てくれる人には気持ちよく演じてもらいたいという監督としての考え方も伝わってくる。一方で、その若者にとっては苦い思い出になった。

 

 監督のダメなところが出てしまったが、それでも彼や支配人といった大人たちが、若者をそっとサポートする姿が印象に残る映画だ。彷徨いがちな若者の情熱をしっかりと受け止め、未来につながるようにと後押ししている。それに、無責任にとにかく頑張れと言うのではなく、「監督はなりたいからと言ってなれるものではない」と厳しいこともちゃんと言った上で「頑張れ」と言うのが良い。しかも説教臭くないし、押しつけがましくもない。

 

 ピンク映画はやめて名画だけを上映したいと主張する支配人に、「それじゃ儲からない。やっていけない。」と現実的なことを言いながら、それでも最終的には情熱に負けて許可してしまうシーンには、監督の人柄がよく表れていた。夢ばかり見ていては立ち行かなくなると知っているが、それでも夢なしでは生きられない人なのだろう。だから似たような人たちの気持ちもよく分かり、無視できない。

 

 その結果、後進が育ち、こんな良い映画が作られたわけだから、彼の生き方は間違っていなかった。見る前は続編なんて何をやるのだ?と思っていたが、見終わった後は逆に、いろんな関係者による若松監督の続編なり、別バージョンの物語なりをもっと見たい、と思うようになった。こんな大人がたくさんいる社会であって欲しい。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 井上淳一

 

出演 井浦新/東出昌大/芋生悠/杉田雷麟/コムアイ/吉岡睦雄/有森也実/田中要次/田口トモロヲ/門脇麦/田中麗奈/竹中直人

 

音楽 宮田岳

 

止められるか、俺たちを - Wikipedia

 

 

登場する人物

若松孝二/木全純治/井上淳一/美加理/牧野剛/赤塚不二夫/大和屋竺/斎藤博/磯貝一/岡留安則/竹中直人

 

 

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