★★★★☆
あらすじ
犬嫌いの市長の隔離政策により大量の犬が強制送還されたゴミの島。そこに飼っていた犬を救出するために市長の養子である少年がやってくる。
ストップモーション・アニメ映画。原題は「Isle of Dogs」。105分。
感想
日本らしき国のとある市を舞台にした物語だ。劇中では英語と日本語が飛び交っている。海外の人にとって劇中の日本語は、何の意味も持たない音と記号なのだが、日本語ネイティブにとっては意味のある言葉なので、それがノイズとなって気が散るというか、情報量が多すぎて集中できない要素となっていた。
ただそれを除けば、監督のウェス・アンダーソンらしい世界観で作られた日本像は、じっくりと鑑賞したくなるような楽しさがあった。捨てられて野良犬と化した島の犬たちの小汚く凄惨な風貌を、古いボロボロのぬいぐるみのように見られる感じにしているのも巧い。舞台も本来はあまりじっくり見たくない廃墟と化したゴミの島だが、ポップに見せている。
少年の冒険・成長の物語であり、犬と少年の絆の物語であり、根っからの野良犬の荒んだ心が癒されていく物語でもある。どの物語もそれぞれ楽しめる。
それから独裁政治と戦う物語でもある。犬を悪者にして排斥しようとする動きや、反対勢力を排除する動き、各界の有力者に働きかけて世の中を誘導しようとする動きなど、悪役である市長の言動は、実際の世の中で起きている様々な事象の暗喩のように思えてくる。現実に起きている出来事が頭をちらちらとかすめて、ただのフィクションだと、のん気に見ていられないような気分にもなった。
少年と犬たちが島を脱出して、いざ市長と対決となるが、案外あっさりと決着がついてしまった。市長の物分かりが良すぎるような気もしたが、すべてを武力や暴力で解決するのではなく、きっちりと法の秩序の下で世界を変えていこうというメッセージなのかもしれない。そのためにはまともな法律としっかりとした運用が大切だ。まずはそれをしっかりと監視していく必要がある。
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本当は汚くてじっくりと見ていられないようなゴミの島を可愛く描いてみせたように、世界に対する危機感をおとぎ話のようにふんわりと伝えようとしているように思える映画だ。色んなレベルで楽しめる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原案/製作 ウェス・アンダーソン
原案 ロマン・コッポラ/ジェイソン・シュワルツマン
原案/出演(声) 野村訓市
出演(声) コーユー・ランキン/ブライアン・クランストン/リーヴ・シュレイバー/エドワード・ノートン/ボブ・バラバン/ビル・マーレイ/ジェフ・ゴールドブラム/F・マーリー・エイブラハム/フランシス・マクドーマンド/ティルダ・スウィントン/グレタ・ガーウィグ/スカーレット・ヨハンソン/オノ・ヨーコ/村上虹郎/野田洋次郎/夏木マリ/ハーヴェイ・カイテル/フィッシャー・スティーヴンス/コートニー・B・ヴァンス/秋元梢/松田翔太/松田龍平/池田エライザ
音楽 アレクサンドル・デスプラ