★★★★☆
あらすじ
1990年の湾岸戦争で現地に派兵された海兵隊員の日常。
感想
序盤は主人公らの訓練の様子が描かれていく。どこかコミカルな雰囲気が漂っているのが印象的だ。軍隊は理不尽なことが多く、理不尽は時にシュールでそこに可笑しみが生まれるからだろう。この楽しげな雰囲気がやがて陰惨なものへと変わっていくのだろうと予想していたが、思いのほか楽しい時間は長く続く。
訓練が終わって主人公らが中東に派兵された後も、それまでの空気は保たれたままだ。文官たちが政治的な調整や交渉を続ける間、現場はただ待つしかない。だが、実際に戦うことがなくても、軍隊生活は彼らの心を蝕む。先の見通しはなく、国に残した家族や恋人を思いつつ、ただ訓練を繰り返すだけの日々が、少しずつ主人公らの精神状態を歪めていく。
大きな動きは何もなく、この調子のまま終わるコメディ映画だったのか?と不安になり始めた終盤、ようやく戦争が始まって主人公らは実戦に投入される。だが期待したような激しい銃撃戦や戦闘は全くない。部隊はただ戦地を進み続けるだけだ。現代の戦争では敵と直接コンタクトするような肉弾戦はそうそうないのだろう。
劇中でいい感じの音楽が使われている映画だが、主人公の「なんでベトナム戦争の音楽がかかっているのだ?」というツッコミは印象的だった。戦争はアップデートし続けているのに、我々の戦争のイメージは古いままだ。
大した手ごたえがないまま、戦争は終結してしまう。だがそれでも戦争は確実にそれに加わった者の心に傷跡を残す。理不尽の中で平然と暮らせるようになってしまうのだから当然のことなのかもしれない。戦争を夢見るようなお花畑にはなりたくない。
想像していたような戦争映画ではなかったが、主人公らの心に狂気が蓄積していく過程が丹念に描かれており、現代の戦争のリアルが浮き彫りになっている。見ごたえがある映画だった。
スタッフ/キャスト
監督 サム・メンデス
出演 ジェイク・ジレンホール/ピーター・サースガード/クリス・クーパー/ルーカス・ブラック/ブライアン・ジェラティ/エヴァン・ジョーンズ/ラズ・アロンソ/ジェイコブ・バルガス/デニス・ヘイスバート
音楽 トーマス・ニューマン
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