★★★★☆
あらすじ
不倫相手の男と待合の狭い一室に籠もり、自堕落な日々を過ごす女。1936年に起きた阿部定事件を題材にした作品。
感想
前半は待合の薄暗く狭い一室での、阿部定と男の情事が描かれ続ける。ほとんどがこの小部屋内のシーンで、やることは大体分かっているし、同じことの繰り返しなので、工夫はしているが段々と閉塞感を感じるようになってくる。
ただここで色々とその後を暗示するような伏線も張られている。とはいえ、当時の人々はこの後何が起きるのかは分かっていただろうから、だからあんなことをしたのだろうなと頷きながら見ている感じだろうか。大河ドラマを見ているようなものだ。
そして起きる事件。彼女のやったことはセンセーショナルに見えてしまうが、相手が死んでからやったことなので、それほどでもないのかなと感じてしまった。生きているのにそれをやったら猟奇的に感じるが、死んでからなら故人の形見や遺骨を持っておきたいと思う感情とそう変わらないのかもしれない。個人的には、遺骨を肌身離さず持ち歩く行為すら十分気味悪く感じる。
男が死んだあたりから、主人公が憑きものが落ちたかのように次第にすっきりとした表情になっていくのがとても印象的だ。それまで男を独り占めするには部屋に閉じ込めておくしかなかったが、もはやその必要はなく、どこにでも一緒に行けるという開放感が出てきたからだろう。もう誰にも男を盗られることはないという安心感もある。前半の閉塞感を感じさせる演出がここで効いてきた。
薄暗く狭い一室に籠もって暇を持て余し、色んな事をやっているうちに一つの事件に行きついてしまうそのプロットは、なかなかの説得力を感じられた。照明や構図で淫靡で独特な雰囲気を作り出していて、映像も見応えがある。
当事者たちはそんなに不幸ではなく、殺された男にしてもむしろ幸せを感じていたような気さえしてきた。この事件はいろんな想像ができてしまうので、物語の題材にいまだによく取り上げられるのも分かるような気がする。
スタッフ/キャスト
監督 田中登
出演 宮下順子/江角英明/坂本長利/橘田良江/千草蘭/大谷木洋子/水木京一/五條博/小泉郁之助/久松洪介/庄司三郎/花柳幻舟
登場する人物
阿部定
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