★★★☆☆
あらすじ
現実と夢の世界がつながっていることに気付いた3人の男たち。
感想
19年発表の作品で、09年の新型インフルエンザ騒ぎを下敷きにしているようだが、現在進行中のコロナ禍の世界を予言したかのような物語だ。そしてさらに言うと、今年発生し、その後いろいろな事実が明るみになりつつある政治にまつわる事件までもが暗示されているかのようで不気味ですらある。
「政治家が自分の利益に貪欲になることは別に気になりません。恐ろしいのは、国の利益よりも、自分の利益を優先させようとした時です」
p101
この小説で描かれていることは、完全に現実の出来事と一致するわけではなく、なんとなく雰囲気が似ている程度でしかないのだが、だからこそ勝手にここ1,2年で起きた様々な出来事を連想してしまう。著者は時代の空気を自然と読み取っていたのだろう。この現実と小説がつながっているような展開も、現実と夢がつながるこの小説の構造とそっくりでもある。
「あの鳥は、自分の天敵を俺たちに倒させていただけかもしれない」
p409
この言葉も現在進行形の現実世界を考えるといろいろと示唆的である。
現実と夢の世界がリンクしていることに気付いた主人公らが、現実に起きる問題を協力し合って解決していく物語だ。そう簡単にはリアリティが感じられない話で、主人公も疑心暗鬼な立場をとっている。信じている仲間たちの話を聞き、「嘘みたいな話だけど」と何度も前置きを繰り返しながら次第に信じるようになっていく。
主人公と同様に読者も説得されていく構造になっているが、主人公の疑心暗鬼ぶりがくどいので、逆にこの世界観を受け入れてはいけような気がしてくる。ここで描かれる夢の世界はファンタジー要素が強めで、個人的に苦手な分野ということもあり、いまいち物語の世界に入っていけない部分があった。
ただそれでも主人公の会社で、馬鹿な上司に振り回されていた部下にスカッとするような出来事が起きたり、ダイナミックな時系列の変化があったりとポイントポイントでは楽しめる部分は多かった。
現実世界とつながっているからまず夢の世界をどうすればいいかとアレコレ考えるのはもうたくさんだ、そんなことより目の前の出来事をどうするかだ、と開き直って現実を直視するクライマックスも爽快感があった。しかもこの小説の設定に反しているようで反していないギリギリのラインを攻めていて上手かった。
著者
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