★★★☆☆
あらすじ
下宿先の女学生を好きになった旧制中学男子は、上級生に睨まれ、喧嘩三昧の日々を送ることになる。
感想
主人公が強くなるために修業をしたり、集団で決闘をしたりと、系譜で言えばヤンキー映画のひとつ前のバンカラ映画といった趣のあるストーリーだ。清く正しい青春不良映画として、難しく考えずに気楽に見ることが出来る。
喧嘩に明け暮れる彼らがしているのは、リアルなマウントの取り合いだ。所詮、人間も本能に突き動かされる動物なのだなと実感する。今は殴り合わずに別の方法でマウントを狙うようになってきたので、人間らしくスマートになってきたと言えるかもしれない。だが、従来の暴力で来られると結局太刀打ちできないのは如何ともしがたいところだ。
主人公はキリスト教徒であり、どこかボンヤリしたところのある男だ。血気盛んでガツガツしているのかと思っていたので、特に序盤のとぼけた雰囲気は異色な感じがあって良かった。脱力感がありながらも、襲い掛かってくる敵には逃げることなく立ち向かう。芯の強さのある独特なキャラクターとなっている。
そして主人公の喧嘩だけでなく、彼の下宿先の女学生に対する恋も同時進行で描かれていく。二人で一緒に出掛けたり同じ部屋で過ごしたりと、思っていたよりも距離を縮めてはいたが、恋心と硬派でありたい気持ちの狭間で悶々とする様子は青春映画らしさがあった。ただそれがこじれすぎて、とんでもない方法でピアノを弾き始めたのには笑ってしまったが。
主人公は中盤で地元・岡山の高校にいられなくなり、福島の学校に転入することになる。それまではただ無邪気に喧嘩しているだけの印象だったが、ここからは転入先の同級生に対する鋭い観察眼や批判的な毒舌が見られるようになって、グッと面白くなってきた。どこか夏目漱石の「坊っちゃん」を彷彿とさせるところがある。
元々の反骨心に加えて異文化と接することで意識が向上し、主人公の視点が一つ上のステージにいったような感覚があったが、それがラストで二二六事件と結びついていったのには驚いた。すごい展開だ。終盤は色々と畳みかけてくる。
続編も考えられていたようだが、作られていれば大河ドラマ的な面白い物語となっていたかもしれない。幻となってしまったのは残念だ。
スタッフ/キャスト
監督 鈴木清順
脚本 新藤兼人
出演 高橋英樹/浅野順子/川津祐介/加藤武/玉川伊佐男/浜村純/松尾嘉代
音楽 山本直純