★★★☆☆
あらすじ
ひ孫を育てる100歳を過ぎた作家の男。他、全5編の短編集。
感想
表題作の「献灯使」は、東日本震災の影響を強く感じさせるような、荒廃し大きく変容した東京が舞台となっている。100歳を超えた老人たちが普通に元気に働いており、しかし若い世代はひ弱で調子が悪い事が普通なかなり特殊な世界だ。
この特殊な世界を主人公が説明していくのだが、まるで老人の問わず語りのあちこちに飛ぶ話を聞いているようで、とてつもなく苦痛だった。全く話に脈絡がなく、あれはこうなっていて、これはこうなっていて、それからそうそう、それはそうなっていて、と独特な世界観が延々と紹介されていくだけだ。物語の展開がほぼないので、話の推進力もほぼゼロ。何行か読んでは、まだ続くのか、と深いため息をついてばかりいた。
続く短編たちも、ただの言葉遊びだったり、あまり意味が分からないような内容ではあったが、震災でおかしくなった日本、というのは共通していて、もしかしてこれ、短編として見るとあれだが、トータルとして見るとすごいのかもと、途中から軽く興奮してきた。
それぞれの小説同士が何となく関連性があるようにも思え、一つの短編としてはわけが分からなくても、他の短編を読むと分からなかったことが分かってくるような、相互に補完しあう構成のように思えてきた。最終的にはすごい結末が待ち受けているのか?と思いながら読み進めてみたが、どうやらただの勘違いだったようだ、というのが率直な感想だ。
著者
多和田葉子
登場する作品