★★★★☆
あらすじ
両親を失って以来、心の調子を崩していた女は、思い付きで蒲田に引っ越し、様々な人たちと交流するようになる。
寺島しのぶ、豊川悦司、妻夫木聡ら出演。絲山秋子の小説「イッツ・オンリー・トーク」を廣木隆一監督が映画化。126分。
感想
両親を失って心の調子を崩し、仕事を辞めてフラフラと暮らしている女が主人公だ。怪しげなサイトを介して見知らぬ男と会ったりしている。
主人公は身近な人たちを失ったことに心を痛めているようだが、阪神大震災や911テロ、サリン事件など、当時の世相が分かるような話題が出てきて感慨深い。ただ、そんなに都合よく身近な人たちが次々と大事件に巻き込まれて死ぬわけがないので、共感を得たいがための彼女の脚色ではある。
前半は、そんな主人公が引っ越した蒲田で過ごす日々が描かれる。気ままに散歩したり、気軽に見知らぬ男に会いに行ったりする様子は自由さを感じるが、それと同時に、彼女のどこか自己評価が低そうな、投げやりな雰囲気も見え隠れしている。
後半は、九州から妻子を置いて家出してきた、かつて関係を持ったこともあるいとこの男との同居生活が描かれる。鬱が酷くなって男に看病されたり、復活して二人で外ではしゃいだりしながら、互いに心が癒されていく。二人がカラオケでほぼフルコーラスを歌うシーンは、なんでもないのだが良いシーンだった。
自分なんてと思っていた主人公も、何もしなくたって誰かの役に立つことがある。だからただ居るだけでいい。無理する必要も卑下する必要もない。誰もが誰かの支えになっていて、時にやさしい嘘をつきながら生きている。気負うことなく生きて行けばいいのだと思わせてくれる映画だ。
少し厄介な普通の女を演じる主演の寺島しのぶが、物語にリアリティを与えている。これがとびきりの美女だったりすると別の意味が加わってしまうが、いい意味でどこにでもいる普通の女の物語にしている。
スタッフ/キャスト
監督 廣木隆一
脚本 荒井晴彦
原作 イッツ・オンリー・トーク
出演 寺島しのぶ/豊川悦司/松岡俊介/田口トモロヲ/大森南朋/河井青葉/秋桜子
音楽 nido