★★★★☆
あらすじ
暴力団同士の抗争の火種がくすぶる街で、抗争阻止に奔走するやり手の上司と行動を共にする新人の刑事。
感想
やくざと親密に交際して重要な情報を引き出すベテランの刑事。時には違法な手を使いながらも、民間人に危害が及ばないように尽力している。そんな上司を最初は怪訝な目で見るも、しだいに意図を理解し共感を覚えていく主人公。
世界を見ても、いつでもどこでも大抵は反社会的組織はあるので、この手の団体はなくならないのだろう。地域によっては、その役割を政府がやってしまっているところもあるわけで。
どうせ壊滅できないのなら、せめて話の分かる相手の方がやり易い。日本語も通じない海外組に進出されても困るし。となると、今いる暴力団で話の分かる組に肩入れして、力を持ってもらった方がいいという発想になるのも分からないではない。
物語は、組同士の関係と組員自体の人間関係がなかなか把握できなくて、何度も組織図を見て確認しなければならなかった。しかし、どこの組とどこの組が敵対していて、だけど、そこの組員は別の組の誰かと義兄弟で…みたいな関係性を頭に入れながら、暴力団対策をしなければいけない警察は大変だ。しかも、合理的ではなくて、義理や人情、メンツを重視して動くので、説得するのも困難だ。
普段から癒着を疑われるほど暴力団と密な関係の刑事ですら彼らを押さえ込むのが難しいのに、ちゃんと距離を取る、法に潔癖な刑事だったら、何も出来ないのだろうな、と思ってしまった。
ようやく相関図が頭に入って、しかしこんなにもつれた抗争の行方はどうなっていくのかと気を揉みながら読んでいたら、予想外の出来事が起きて、話は一気に違う方向に向かっていってしまった。さらにそこから驚かさせられる展開がもう一つ待っていた。終盤に進むにつれて話の行く末が気になって、ページをめくるのが止まらなくなる展開。
終盤には各章の頭に日誌のようなものが付されていた理由も明らかになって、うまい構成だった。映画化したくなるのも納得の面白さ。
著者
柚月裕子
登場する作品
「不断草」 山本周五郎
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