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「暴虎の牙」 2020

暴虎の牙 「孤狼の血」シリーズ (角川書店単行本)

★★★★☆

 

あらすじ

 ヤクザの息子として生まれ、ヤクザを憎む若い男は、なんの後ろ盾もない徒党を組み、広島で天下を取ることを夢見て暴力団に抗争を仕掛ける。「孤狼の血」シリーズ第3作目で完結編。

 

感想

 第一作目で描かれたよりも前の時代設定で物語はスタートする。組織に属さない愚連隊を率いる若い男の姿を、第一作の主人公であった刑事の姿と共に交互に描いていく。

 

 愚連隊を率いる若い男が今作の主役だ。強い者には弱く、弱い者には強いヤクザの姿を見て育ち、ヤクザを軽蔑しその見せかけだけの本質もよく理解している。強い弱いよりも覚悟があるかどうかで勝敗が決まるという彼の哲学は確かに肯けるものがある。序盤の物怖じしないでヤクザに向かっていく姿には迫力があった。

 

 

 だが何も恐れるものがないということは、捨て鉢になっているだけとも言える。後先考えずにただ突っ走るのは、破滅に向かって突き進むのと同じことなのかもしれない。確固たる計画を持たなかった彼らもまた、花火のように一気に散ってしまう。

 

 主人公はヤクザの父親からその見掛け倒しぶりを学んだが、何があろうと体面を守り、けじめをつけようとする組織としての暴力団の怖さには気づけなかったのだろうか?と思わなくもない。彼は父親への憎しみが強すぎて、弱点ばかりを探してしまっていたのかもしれない。

 

 そしてそれから数十年の時が過ぎ、死んでしまった第一作の主人公に代わり、今度は第二作の主人公だった刑事が登場する。シリーズ完結編らしい上手い構成だ。広島に戻って来た愚連隊の最後の姿が描かれていく。だがかつての勢いが感じられなかったのは、彼らが歳を取り過ぎてしまったからだろう。年齢と経験を重ねてしまったあとでは、もはや無鉄砲なことはやりづらい。

 

 そんな空気が見えるかつての仲間の前で、主人公がイラついてしまうのは分からないでもない。生まれた時から捨て鉢だった彼に、今さら生き方を変えろと言うのは酷だろう。自分の生き方を貫こうと、いつの間にか嫌っていた父親のようになっていく彼の姿には物悲しさがあった。

 

 ひとりのチンピラの栄枯盛衰を描いた、なんてことのないストーリなのだが、先の読めない展開が面白く、500ページほどあるボリュームなのにあっという間に読み切ってしまった。予想を裏切る結末も驚きがあり、エンタメ作品として堪能できる。

 

著者

柚月裕子

 

孤狼の血 - Wikipedia

 

 

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