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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「ミラーズ・クロッシング」 1990

ミラーズ・クロッシング (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

  マフィアのボスの右腕を務める男は、ある日仲違いをして敵陣営に移ってしまう。

 

感想

 冒頭、「ゴッドファーザー」のように始まりながらもビシッと話が決まらず、グダグダになってしまう展開が面白かった。この映画はコメディではなく、マフィアのシリアスな抗争が描かれていくのだが、こんな風に時にファニーな雰囲気を漂わせて、いかにもコーエン兄弟作品ぽかった。

 

 どちらもボスとその右腕のコンビの構図だったり、同じように警察の手入れが入ったり、市長と警察署長が訪問したりするシーンがあったりと、両陣営が対になるような映像がたびたび登場する。また、主人公が森を訪れたり、命乞いをされたりするシーンなど、似たようなシーンが2回繰り返されることも何度かあったりして、演出的にもなかなか興味深い。タイトルの「ミラー(Mirror=鏡)」にかけているのかなとふと思ったのだが、綴りは「Miller」で鏡の意味ではなかった。鏡のようなシーンが多かったような気がしたが、さすがにそれは考えすぎか。

 

 主人公が敵対する組織に移るプロットもどこか「用心棒」を思い起こさせるが、不安や恐れの疑心暗鬼の中で駆け引きやはったりが繰り広げられ、常に緊張感のある展開になっている。見ごたえはとてもあるのだが、正直なところ、ずっと心のどこかに引っ掛かりを感じながら見ていた。主人公がなぜ両陣営をかき回すようなことをするのか、その動機がまったく分からないからだ。「用心棒」のようにスパイとして潜入した様子でもなかったし、女のためならその弟を殺してしまうのは不可解だし、あまり彼女に対する執着も感じられなかった。

用心棒

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 それに主人公は頭が切れる設定なのだが、どうにもそうは見えない。思いつきのままに行動し、起きてしまったことに対してただ必死に対処しようとしているだけのように見えた。

 

 だがそんなモヤモヤとした思いも、ラストシーンで主人公がボスの後姿を切なそうに、愛しそうに見つめる視線を見たら、一気に分かってしまった。全ては主人公がボスとの関係を維持するためだったと考えれば色々と帳尻が合う。女と別れさせようとしていたのも、その弟を平気で殺すことが出来たのも、彼と女の仲を引き裂こうとしていたからだった。劇中で妙にゲイの話題が多いなと思っていたのだが、そういうことだったのか。

 

 

 そして主人公は、そんなどうにもならない思いを抱えていたから半ば自暴自棄の行動を取っていたのだろう。彼の行動が計画的に見えなかったのも納得だ。頭が切れるはずなのに、ギャンブルに弱く借金を重ねていたのも同じ理由だろう。

 

 それに気づいた時に、でも相手はお年寄りなのでリアリティがないのでは?と一瞬思ってしまったが、よく考えると中盤にボスがたった一人で敵の急襲を撃退してしまったシーンはカッコ良かった。主人公にはまったく力を誇示するシーンがなく、逆に中年女性に叩かれてしまうくらいの頼りなさだったのとは対照的だ。ボスのこんな姿をずっと見てきたのなら、確かに惚れてしまうのも分からないではない。

 

 最後の最後に一気に視界がクリアになる、気持ちの良い映画だった。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 ジョエル・コーエン

 

脚本/製作 イーサン・コーエン

 

出演 ガブリエル・バーン/マーシャ・ゲイ・ハーデン/ジョン・タトゥーロ/ジョン・ポリト/J・E・フリーマン/アルバート・フィニー/マイク・スター/スティーヴ・ブシェミ/オレク・クルパ/マイケル・ジェッター/ジョン・マコーネル/マイケル・バダルコ/サム・ライミ/*フランシス・マクドーマンド

*クレジットなし

 

撮影 バリー・ソネンフェルド

 

ミラーズ・クロッシング - Wikipedia

 

 

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