★★★★☆
あらすじ
新聞社社長の依頼でとある街にやって来るも、依頼主が殺されてしまった探偵社の男は、悪が蔓延る街を一掃しようと決意する。
別邦題に「赤い収穫」。黒澤明の「用心棒」などその後の数多くの作品に影響を与えた作品として知られる。
感想
悪人たちが跋扈する街にやって来た探偵社の男が、各陣営を行ったり来たりしながら、互いに戦い、潰し合うように仕向け、勢力を一掃してしまおうとする物語だ。声高に正義を訴えたり糾弾したりすることなく、何食わぬ顔で相手の懐に入っていく主人公がクールだ。
ただ、主人公がなぜそこまで街のために働くのかはいまいちピンとこなかった。だが、当初の依頼主が死んでしまったこの出張を無駄足にしないためだったと考えれば納得できる。新たな依頼主を見つけて、ちゃんと仕事としてやっている。もちろん義憤のようなものもあったとは思うが、まずは優秀な会社員としての務めを果たそうとしたのだろう。
それから主人公が、背が低く太った体形なのは意外だった。なんとなくこういう物語の探偵はスラッとした痩せ型の印象があったが、かなりでっぷりとしている。面の皮の厚そうなタフなイメージを狙っているのだろうか。
主人公があちこちの陣営で策謀をめぐらせながら、時おりさらっとその渦中で起きた事件の謎解きをするのが面白かった。そもそも謎解きをしようとしていたことにすら気付かないので意表を突かれる。息詰まる展開に一区切りも付くので、物語の良いアクセントになっていた。
終盤には主人公自身に危機が降りかかる。アウトサイダーとしてただ掻き回すだけだった主人公がついに当事者となり、一気に緊張感が高まった。物語の大まかなストーリーは、その後のこの小説に影響された数々の作品を見てしまっているせいで斬新さを感じることはなかったが、誰も信用しないハードボイルドな世界観にグッと引き込まれた。
著者
ダシール・ハメット